ストロー

 玉坂の家に戻ると、ユリさんは畳の上で昼寝をしていた。昼寝というか、夕寝というか。居間のちゃぶ台の上にはカルピスを作って飲んだ形跡があって、グラスに刺さったストローには齧った跡が付いている。

 持ち帰ったトマトを水洗いしながら、あのストローをこの夏の終わりに持って帰ったら、そのまま置いておけるのだろうかと考える。何となく、跡は消えてしまいそうな気がする。それともストローごと? わからない。


 灯台から帰るとき小川さんは、近いうちに玉坂家に立ち寄ると言ってくれた。お線香をあげてくれるのだと言う。

「小川さんが来てくれたらユリさんも喜ぶと思います」

 通り一遍のやり取りに聴こえるだろうなと思いつつ、居間で飛び跳ねて歓喜するユリさんの姿を思い浮かべる。

「きっと言うわね、カオルー! って」

「……え?」

「カオルっていうの、名前。小川カオル」


 気に掛かっていた「カオル」の正体も分かり、あとは叔母からの提案だけが残る。

「ねぇ、あなたその家に住む?」

 決めあぐねたまま視線を向ければ、あいも変わらず眠り続けるユリさんがいる。その腕が薄っすらと透けているのを見咎めて、あぁ、もう夏も終わるのか、と思う。

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