雨女

 当時から、観光用としての灯台の仕事はあまり忙しいものではなかったらしく、たまに訪れる観光客にパンフレットを渡したり、道案内をしたりと、のんびり働いているのだと言う。そんな訳だから迷い込んできた中学生にギターを教える時間は十分にあったそうで、ユリさんはここへ足繁く通うようになる。

「覚えが良かったよ、ユリちゃんは」

 昨日教えたコードは三日後には完璧に押さえられるようになっていて、あっという間に曲をマスターしていった。小川さんは嬉しそうに語り、目を細めて麦茶を飲む。

 小川さんの語るユリさんは、僕が玉坂の家で目にしていたユリさんと少し温度差があるように思う。まぁ、そりゃあ生前の姿と幽霊の今じゃ、違っていて当然なのかも知れないけれど。

「あら、雨だ」

 目を向ければ、降り出した夕立がポツポツと窓を叩き始めていた。

「いやねぇ、何だかあの頃みたい」

「あの頃?」

「そうよ。知らない? ユリちゃんは結構な雨女でね。ここへ遊びに来ると頻繁に雨に降られていたわ」

 それが帰ろうとするタイミングで降るものだから、雨宿りがてらまたギターを弾き始めてね。

 小川さんの思い出話を聞きながら、僕は何となく、この雨はユリさんが降らせているような気がしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る