摩天楼

 白くそびえる灯台は何にも属していないように見えた。空からも海からも、何ものにも干渉されず、マイペース。まるで摩天楼のビル群からひょいと抜け出たような気楽さ。それはほとんどユリさんに似ていると言っても良いだろう。

 灯台に続く階段は綺麗に整備された形跡があり、きっと以前には観光地として機能していた事が推察される。

 階段の手摺の塗装は所々が剥がれ、赤茶色の錆が覗いている。さりとて手入れをされていない訳でもなく、柵で限られた敷地内は雑草の姿が見当たらない。短く刈られた芝と言い、誰かが定期的に通っているようだった。

 ザン、と岬の下に迫りあげる波の音。それに混じって他の音がするのに気が付いた。サク、サク。

 階段を上につれて人影が見えてくる。麦わら帽子をかぶった後ろ姿が、熱心に草を刈っているのだ。とりあえず人が居たことに安堵した僕は声をかけてみることにする。

「こんにちは」

 ピタリと動きを止めた人影が振り返る。麦わら帽子のツバの向こうに見えたその顔に、今度は僕が動きを止める番だった。

「……ゆ、ユリさん?」

 その人物は、日焼けこそしていたもののほとんどユリさんと瓜二つの顔をしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る