トマト
延々とトマト畑が続いている。
バスの車窓から覗く風景は、その向こうに静かに空が広がっている。トマト畑の奥は海で、海洋深層水とやらでトマトを育てたものがこのあたりの特産品のひとつなのだと聞いた。それでこんな海の近くにトマト畑が広がっているという訳だ。
そんな事ないはずだけど、やっぱり、しょっぱくないのかな、と思ってしまう。帰りに買って行こうか。この近くで買えるのだろうか。
岬に近いバス停で降りる。僕の他には車輪の付いたカートを引き摺るおばあさんが一人降りた。おばあさんは矍鑠とした足取りで僕を置いてさっさと歩き出す。カートが従順な犬みたいについて行く。
後ろ姿を見送るうち、ビー、と気の抜けた音をさせて背後で扉が閉まる。排気ガスを盛大に吐き出しながらバスが走り去る。そちらもまた見送ってから歩き出す。それから、そう言えば帰りのバスの時刻を確かめてくるのを忘れていたなと思う。
トマト畑が途切れる頃、目的の灯台が姿を現す。この灯台にユリさんが出入りしていたのだと母から聞いた。何か、ユリさんのことがわかるのかも知れない。
薄っすらと期待して訪れた灯台は人の気配が全くなくて、早くも敗北を予感している。
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