半年

 半年前、真冬の最中さなかに玉坂家を覗きにきた事がある。毎年正月の前後に誰かが風だけ通しに来ることになっていて、その役目を請け負ったのだ。

 遠目には立ち並ぶ他の家々と同様に見えていたのに、近くになるにつれて、他とは様相が異なっていると感じる。自分のよく知る家だからか、単純に空き家で人の気配が無いからなのかは分からない。縮こまっている。ただ雨戸を閉したままの家なのに僕の目にはそんなふうに映った。

 家の中はしんとして埃っぽく暗い。生活の残滓の手触りだけがあちらこちらにあって、僕はそれを踏み散らかさないようにそっと足を運ぶ。音を鳴らして雨戸を開けると冷たい風が吹き抜ける。

 庭を見渡してみれば、枯れ落ちた葉が降り積もっている。この冬はまだひやかし程度にしか降雪がないのだ。

 今のうちに掃除をしておいたら夏に少しは楽が出来るかも知れない。

 考えれば考えるほどそれは名案に思えて、玄関に取って返す。三和土に竹箒があったはずだ。


 思えば、どうやら僕はその時にはもう既に、この夏はひとりでここへ来ようと決めていたのだ。

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