窓越しの

 クーラーの効いた室内にいる。締め切った窓越しの庭にはユリさんの姿があって、翳り始めた空の下で何かを探すように歩き回っている。目線は地面を追っている。表情は真剣そのもので、いつにない顔つきに僕は不安になる。


 玉坂家の庭は近隣に比べたらそこそこ広く、それなりに樹木も多い。今は夏の花が盛りで、外壁の近くには百日紅の木が、濃い赤色を空に向けて伸ばしている。

 小さい頃、この家の庭で初めて百日紅をみた。ちりちりと開いた赤色がどうしても花とは思えなくて不思議な気持ちで手に取ったものだ。

 あの時、他の花と見比べてみようと隣りに生えている木の桃色の花に手を伸ばしたら、父が真っ青な顔でやって来て、僕の手からそれを取り上げた。あれは、どうしてだったか。父の顔の真剣さそのものが幼い僕には怖く思えて、何を怒られたのだったか、肝心の内容を覚えていないのだ。

 細長い緑色の葉と、可愛らしい桃色の五枚の花弁。あの花は何という名前だったか。


 いつの間にかユリさんがあの木の下に立っている。桃色の花に触れないように告げるべきかと迷って、そう言えばユリさんにはもうその注意も必要ないのだと思い直す。

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