さやかな

 夕暮れの庭にちいさな光が灯っていた。近所と言うほど近所に川はないけれど、そういえば近隣の自然公園で、子供向けの夏休みの催しとしてホタルを放すのだと聞いたことがある。どうやらそれが迷い込んだのか、庭の芙蓉の葉蔭でささやかな光がゆっくりと明滅している。

 人口の小川なんてホタルにしてみればいい迷惑だろう。そんな風にしか思わなかった。けれど、実際に目にしてみるとやはり感慨深く、息を凝らしてじっと観察してしまう。

「ユリさん、ホタルがいるよ」

 呼びかけてみても返事はない。

 不思議に思って振り返り、目線を向ければ、畳の上に寝そべったままのユリさんから小さな寝息が聴こえていて、僕はやれやれと軽く首を振るのだった。

 小さな命の光は、僕らを他所に弱々しく明滅を続けながら、懸命に生きている。

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