定規
どうやら雨漏りがしているらしい。そう気付いたのは先日のこと。調べてみれば、雨戸の隙間から水が入り込んでいるようだ。このままにして置けば廊下が腐ってしまうかも知れない。
築古の家とはいえそれは良くないので、防水シートか何かで補修を試みることにした。が、この隙間の大きさを測るために使えそうなメジャーの類がこの家には無く、あるものといえば心許ない三十センチ定規のみ。
仕方なく、僕は自分の手のひらの大きさを測る。で、手のひら何枚分かと換算すれば、必要なシートの大きさが分かるという寸法……なのだったけれど。
「えーと、十八センチかな?」
悪戦苦闘していると、ユリさんがやって来て僕の手から定規を奪い取る。
思い返してみれば、僕はユリさんの身体に手を触れたことがなく、また、ユリさんが僕に触れるような機会もなかった。だから、プラスチックの定規を面白そうに手にしたユリさんが反対の手で僕の手首を掴んだ時、心底驚いたのだ。ユリさんの手は、ぞっとするほど冷たかった。
「……助かったよ。自分じゃ上手く測れなかったから」
絞り出した感想に、そうでしょう、そうでしょう、と満足げに頷いたユリさんはひらりと定規を煌めかせて、自分の手のひらのサイズを測る。眉間の皺。眇められた目。じぃわ、じぃわと庭の木に止まった蝉が鳴き始める。
「……十六センチ」
厳かに告げる声に、僕は上手く応えられない。
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