錬金術

 死後の世界っていったいどんな事になってるのか、たまにそんな事を考える。三途の川を渡る為の六文銭を待たせたりする習慣があるのだから、たぶん、場所によっては貨幣価値が意味を持っているのか。それとも、「きちんと三途の川を渡れるように」と持たされるその気持ち自体に価値があるものなのか。


 近所の雑貨店に顔を出したついでに、店番のお婆さんがソーダの味のアイスバーをくれた。一応の供養なのだから線香を炊くことにしているのだけど、今年は開けたケースの中身がほとんど空だったのだ。それで、古い雑貨店へと足を運んだ。

 埃っぽい店内の、コンクリートの土間の匂い。薄暗い空間でお婆さんは店番の猫とほぼ一体化して存在していたなぁと思い出す。


 ユリさんの棺桶には六文銭が入っていたのだろうか。こうしてここに現れてしまうってことは、つまりは成仏してないって事で。それとも逆に、夏の間だけこちらに戻れるような、等価交換できる何かを差し出しているのだろうか。

「……あ、当たりだ」

 ユリさんは口の中から引き出したアイスの棒をこちらに向けて振る。次いで、くるくると指揮棒のように空気をかき混ぜる。僕はその目に見えない渦に引き寄せられるように、さっきまで考えていたことをすっかりと忘れてしまう。

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