散った

 そのヒマワリの花に気が付いたのはつい一昨日のことで、玄関横の、隣の家との境目の細長い敷地の突き当たりに、黄色い小ぶりのヒマワリがひっそりと咲いているのを見つけたのだった。

 ひょろりと伸びた茎は細く、かろうじて朝の間だけ当たる陽の光を緑色の葉っぱが懸命に受け止めている。花は小振りで、今にも花弁がふつりと落ちてしまいそうだった。

「これって移植してあげたらもっと咲くのかな」

 誰にともなく独り言ちると、肩越しに「やめといたら」と声がかかる。振り返らなくてもわかる。ユリさんの声。

 風に乗って飛んできたのか、ネズミか何かが運んできたのか、僕らはそのヒマワリの種の来し方行く末に思いを馳せる。もしここに種が落ちたら来年も咲くのだろうか。その時は今度こそ種をもっと陽の当たるところに撒いてやってはどうか。

 数日はそんな話題があったくせに、数日後にはその存在を忘れてしまい、結局のところヒマワリは僕らの忘れている間にすっかりと跡形もなく散ってしまっていたのだった。

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