ぱちぱち

 ぱちぱちと、僕は思わず瞬きを繰り返す。

「ねぇ、カオル」

 さっき確かにユリさんはそう言った。ねぇ、カオル。明日の夜は花火をしましょうよ。


 昨年と今年はひとりで、その前までは母と僕、それに叔母といとこが、交代でこの玉坂の家で夏を過ごしている。そのメンバーの中に「カオル」の名を持つ者はいない。

 思い起こせば、ユリさんとの数年に及ぶ付き合いの中で、名前を呼ばれるということはなかった。てっきり甥っ子だと認識されているように思っていたけれど、どうやらあちらとこちらのことわりは通じているようで通じていなかった可能性がある。

 母は三姉妹。名前はスミレ、ユリ、モモ。叔母だけ果物になる、と不貞腐れた事を言っていたのでよく覚えている。四人目の子供が居たのだろうか。でもそんな話は聞いたことがない。

 明らかに、親しい者に対する呼びかけに聞こえた「ねぇ、カオル」は誰に向けられたものなのか。

 僕は何度も瞬きしながらユリさんの横顔を見つめ続けてしまう。

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