雷雨

 買い出しから帰る途中、案の定雨に降られた。スーパーに入店する頃には既に西の空に黒い雲が見えていたから、この速度で降り出したのは妥当な所かも知れない。

 家が近くなるにつれてご丁寧に雷まで鳴り始めて、控えめだった音がどんどんと大きくなっていく。

「まずいな」

 玉坂家の広縁はどう言うわけか庇が短いので、窓を閉めなければ吹き込んでしまう。ユリさんは起きただろうか。

 割と派手に濡れながら帰り着くと、果たしてユリさんは広縁で寝転んでいた。買い物袋を台所に放り出して一目散に駆け寄る。

「降り出したら閉めておいてって言ったじゃないですか!」

 びしょびしょと景気良く雨まみれになった板の間を踏んで、掃き出し窓を閉めてまわる。その間、足元のユリさんは猫みたいにゆっくりと柔らかな伸びをして、それからやっと口を開いた。

「わぁ、雨だ」

「だーから。予報で降るって言ってたから、窓閉めてって」

「うん……聞いたね、それ」

 まったくもう、このひとは。

 呆れながら最後の一枚を締め切ると、雷鳴が少しだけミュートされる。ユリさんが指をすっとさす。

「見て、稲妻」

 つられて見上げると真っ白く光る筋が空を両断するところで、僕の口からは、おお、という声が漏れた。

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