ラブレター

 縁側に腰掛けて、ユリさんがギターを弾いている。たどたどしい旋律。透き通って響く和音。あんまり上手じゃない鼻歌混じりのビートルズを聴きながら、僕は庭の草をむしっている。

 壁にかけてあった麦わら帽子はなかなか古めかしいものだったけれど、埃を払えばきちんと機能を果たす。多機能ばかりが取り沙汰される昨今、こんなシンプルな物が愛おしく思えたりするものだ。


 生前ユリさんの書いたラブレターが、遺品整理の時に出てきたと叔母が話していたことがある。きちんと封をされていたので開封しなかったのだと叔母は言い、それではどうしてラブレターだと分かったのかを訊けば、だってと頬を緩ませた。

「ハートのシールがついてたから」

 フリーイラストで見かけるような、ベタな桃色のハートが閉じた封書の中央をしっかりと封していて、あまりに可愛らしくて開くなんてもっての外だったのだと叔母は笑った。


 ユリさんの生きていた時代は少なくともスマホはなかっただろう。恋を告げるには手紙というツールが都合良かったのかも知れない。例えそれを渡せなかったのだとしても何だか風情がある。

 昨夜降った夕立で柔らかくなった土から、一房、また一房と、根っこごと雑草を引き抜いては袋に入れていく。土の匂いが立ち昇り、僕は何度目かの蚊の襲来を手のひらでパチンと叩き、汗を拭う。


 ——And nothing to get hung about ……

 ——Strawberry Fields forever.


 ユリさんは見向きもせずにギターを爪弾く。僕はそれを聴きながら青々と葉を伸ばす雑草に手を伸ばす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る