アクアリウム

 分厚いガラス越しの白い砂はいかにも柔らかそうに見えた。人工的に作り出された水の流れが海藻を揺らして、その間をふらりと現れた小さな魚が漂う。説明書きのパネルの写真によればそれはハコフグという種類で、確かに箱のように四角張った薄黄色の体をしている。

 さふさふと、ハコフグとやらのささやかなヒレが白い砂を舞わせる。砂は質量を感じさせず、風花にも似ていた。一連の無音の動きは僕の脳裏に今朝見たユリさんの足を思い起こさせる。

 朝方、夢うつつの頭を枕に乗せたままで意識の境目を漂っていたら、ふと、目の前を一対の足が横切ったのだ。小柄な両足は寝転んでいる僕の横を通り過ぎると、そのまま広縁の方へと向かい、どうやらたぶん庭に降りて行ったようだ。

 あぁ、ユリさんか。

 僕はすぐにそう思い至って、だから怖いとか、不思議だとか思うこともなくて、ただユリさんのくるぶしから下が摺り足気味に畳を踏んでいくのを見ただけだ。

 平日の午後の水族館は人が少ない。魚たちもどこかぼんやりしていて、僕はぼんやりしたアシカのショーを見て、パサつくポテトフライを食べて、ソーダ水で飲み下すと、淡く日の暮れる街の中をクラゲの動きを真似ながら家路についた。

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