飛ぶ

 軒先でチィチィと騒がしい鳴き声を振り撒いていた彼らが飛び立って数日が経つ。先月からこの家の手入れをしに通っていたわけで、行きがかり上、ちょうどその旅立ちを見送ることになった。正に「もぬけの殻」といった風情の不恰好な茶色い塊をそろそろ撤去しなければならない。

 そのガランとした空間に、僕は何となくユリさんの仏壇を連想する。

 黒くて平べったい位牌と、控えめな装飾の観音開きの扉、小さなおりん、シンプルな線香立ては蓮の花を模っている。ちょうど今週、埃を払ったところだった。薄暗がりで試しにふぅと息を吹きかけると、舞った埃が雨戸の間から差し込んだ光にキラキラと反射したけれど、ユリさんの気配はない。ポストカードと同じサイズの写真が飾られている。写真の中のユリさんは、少しすましてこちらを覗き込む。

 ユリさんはいつか出てこなくても良くなるんだろうか。そもそもどうして夏の間だけ出てくるんだろうか。母にも叔母にも心当たりはなく、ユリさんの滞在は気が付けば夏の始まりを告げるものになっている。もう梅雨なのね。そろそろ今年は誰が行くか、決めなくちゃねぇ。

 風が吹く。庭先の立葵が揺れて、とまっていた蝶々がフリルのような花弁の周りをふらふらと飛び始める。

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