喫茶店

 クリームソーダのみどり色の炭酸が、白と赤のストライプ模様のついたストローを通って口腔内へと流れ込む。差し向かいの席で叔母が飲んでいるコーヒーフロートはこれと似て非なるものだ。さっきから、叔母はコーヒーフロートのフロート部分を担うアイスクリームばかりを、柄の長い独特のスプーンで突き回している。それと言うのも僕らがこの古めかしい純喫茶に来る理由がユリさんだからに他ならない。

「声がしたよ」

 昨日の晩。叔母は弾かれたように顔をあげ、更にそう付け加えると眉を下げた。ホッとしたのと、呆れたのと、多分その両方があるんだと思う。

「今年もいるのね」

「みたいだね」

 七月、ユリさんは叔母の生家に現れる。とうに亡くなったはずの彼女が何食わぬ顔で現れるようになって、今年で八年目になった。その間、空き家になっている時期もあったからもしかするとそれ以上かも知れず、ユリさんがいつから来ていたのかも、いつまで現れ続けるのかも、誰にも分からない。

「お願いしてもいいのかしら」

「もちろん」

 暇な院生の僕は常と変わらず安請け合いを披露する。

「ミルクセーキをテイクアウトして行く?」

 でもどこか愉しそうな顔をしているのは、本当は叔母だって自覚しているはずだ。亡くなった姉の好物を甥っ子に持たせて送り出すくらいには。

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