第59話 異変

「自律型甲冑兵とはかつてザンジールという名の帝国が世界を支配するために開発を進めていた魔法兵器のひとつです」

「ま、魔法兵器……」


 俺の住んでいる世界で言うなら戦車や戦闘機に値するってわけか。


「中身がない甲冑だけの存在か。こんなヤツが量産化されたら、他の国はたまったものじゃないな」

「うーん……どうでしょうね」


 何か含みのある言い方をする竜崎くん。

 間違ったことを言ったつもりはないんだけどな。


「どうかしたのか、竜崎くん」

「いえ、ちょっと思い出して」

「思い出す? 何を?」

「あの自律型甲冑兵なんすけど、実際に量産化される計画だったのを阻止した連中がいるんすよね」

「例の帝国を? どこかの国が?」

「民間人が八人ほど。彼らのおかげで帝国の野望は打ち砕かれたっす」

「えっ?」


 なにそれ。 

 たった八人でひとつの国を潰したってことか?

 確かにヤバいが――って、待てよ。


「なんか、あっちの世界にも似たような設定のラノベがあった気がする。タイトルはなんだったかなぁ……スローライフ系だったと思うんだけど」

「そうなんすか?」

「まあ、偶然だろうけど。それより、あいつがルナレナ様の力が失われていることと何か関係があるのか分かるか?」

「どうっすかねぇ……ちょっと声をかけてみるっす」

「えっ? 大丈夫か? 魔法兵器ってことは戦闘用なんだろ?」

「それはそうっすけど、さすがにもう百年以上前の話っすからね。しかも実際は試作機しか作られていないって話だったんで、性能的には劣るんじゃないっすか」


 相変わらず軽いノリだが、竜崎くんの実力ならたとえあれが本物であったとしても軽く蹴散らせるんじゃないか?


 ――なんて、思っていたら、ここで竜崎くんに異変が。

 突然進めていた歩がピタリと止まってしまったのだ。


「? 竜崎くん?」


 まだあの甲冑兵に話しかけてもいないのに、何があったのか。

 気になって近づこうとしたその時、竜崎くんはその場にバタッと倒れてしまった。


「りゅ、竜崎くん!?」


 まさか、あの甲冑兵に何か攻撃をされたのか?

 そんな風には見えなかったけど……とにかく今は彼を連れてダンジョンを出なければ。


「しっかりしてくれ、竜崎くん!」


 意識を失っている彼をなんとか起こそうと声をかける――が、それに甲冑兵が気づかないはずもなく、俺たちの存在を認識すると腰に携えていた鞘から剣を引き抜く。


 ……あっちはヤル気満々みたいだな。


「戦うしかなさそうだな」


 ふたりで生還するためにはもうそれしかなかった。

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