第54話 戦闘開始!

 ついにダンジョンで初めてのエンカウント。

 記念すべき――というと不謹慎だが、自分が本当にゲーム世界の人物になった気分がしてきたので怖さと同じくらい浮かれている気持ちもあった。


 ともかく、俺が初めて遭遇したモンスターは……


「ゲコッ!」

「カ、カエル?」


 スライムとかゴブリンとか、そういうオーソドックスなパターンではなく、あっちの世界でも見慣れているカエルが俺たちの前に姿を現す。


 ――が、驚くべきはそのサイズだ。

 デカい。

 とにかくデカい。

 二メートルくらいはあるんじゃないか?

 あれだと人間でさえ丸呑みにできそうだぞ。


「……ヤバくね?」


 ここへ来てようやく危機感が津波のように押し寄せてきた。手元にある武器はリーチの短いキャンプ用ナイフ。相手はきっと舌を伸ばして長距離からも攻撃が仕掛けられるはずなので圧倒的に不利と言える。


「りゅ、竜崎くん……ここは逃げた方がよさそうかな?」

「あれくらいなら問題ないっすよ」


 おぉ!

 竜崎くんから頼もしいひと言。


 彼も今回が初めてのダンジョンということで緊張していたが、モンスターのレベルを察して強気に出られたようだ。


 そんなこちらの浮かれっぷりなど知らず、カエル型のモンスターは先制攻撃とばかりに喉を膨らませ、直後、予想した通り長い舌を飛ばしてくる。あれでくるんで動きを封じようという魂胆か。


「甘いっす!」


 竜崎くんは猛スピードで迫る舌を掴んだ。

 凄い動体視力だな。

 ルナレナ様がその実力に太鼓判を押す理由がよく分かる。


 さて、問題はここからだ。

 相手の舌を掴んで逆に動きを封じることに成功したが、倒すにはここからダメージを与える術を探らなければならない。


 やはり、俺が仕掛けるべきだよな。

 そう思って、ナイフを握る手に力を込めた――次の瞬間、カエル型モンスターが意外な行動に出る。


「ゲコッ!」


 そう鳴いた後、モンスターはなんと舌を強引に引っ張り込んでそのまま竜崎くんをパクリと飲み込んでしまったのだ。


「りゅ、竜崎くん!?」


 一瞬の出来事で俺は身動きひとつ取れず、飲み込まれていく竜崎くんを見つめることしかできなかった。


「く、くそっ! 竜崎くんを返せ!」


 半ばパニック状態となった俺はヤケクソ気味にカエル型モンスターへと突っ込んでいく――が、ここで向こうに異変が。


 何やら苦しんでいるようだけど……もしかして、食べられたと思われていた竜崎くんがモンスターの内部で何かをしているのか?


 呼びかけようと接近したら――突然カエル型モンスターの体が爆ぜた。


「うわっ!?」


 衝撃に吹っ飛ばされる俺。

 すると、いつもの飄々とした声が聞こえてきた。


「いやぁ、ビックリしたっすね」

「竜崎くん!」


 そこには体液まみれの竜崎くんが。

 どうやら、俺たちは記念すべき初戦闘を初勝利で飾れたようだ。

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