第53話 初めてのダンジョン
準備は整い、挑戦の時はやってきた。
「いよいよか……」
「矢凪さん、緊張してるっすか?」
「そりゃもちろん」
転移魔法を使って一瞬のうちに精霊たちの里へと舞い戻った俺と竜崎くんは、岩壁にぽっかりと開いたダンジョンの入り口前で気持ちを落ち着かせていた。
俺にあんなことを聞いておきながら、竜崎くんも十分緊張しているっていうのが伝わる。
無理もない。
何せお互い初めてのダンジョン探索になるんだからな。
「お待ちくだされ」
これから第一歩を踏みだそうとした時、何者かが俺たちへ声をかける。
その正体は――精霊族の長だった。
「どうかしましたか?」
「いやなに、新たな挑戦をしようとする若者たちへ、ワシら精霊族から贈り物を渡そうと思ってのぅ」
「「贈り物?」」
俺と竜崎くんが顔を見合わせていると、長をはじめ多くの精霊たちが突然発光し出した。
やがて光は精霊たちのもとを離れると上昇。
ちょうど俺たちの頭上まで移動してくると花火のようにポンと破裂し、光の粒子がシャワーのように注がれた。
小さな光の粒はとても温かく、緊張で固まっていた俺と竜崎くんの体をほぐしてくれているようだ。
「ワシらが君らにできることはこの程度のものじゃが」
「いえ、とても力になりました」
「そうっすよ。おかげで緊張も緩まったし」
「でも緩みすぎには注意してくれよ、竜崎くん」
「もちろんっすよ!」
うん。
いい感じに緊張が解けたな。
かといって緩くなりすぎてもいない……メンタル部分に関してはベストコンディションと言って問題ないな。
「ありがとうございます。行ってきます」
「気をつけてな」
精霊たちに見送られて、俺たちはダンジョンへと足を踏み入れる。
キャンプ用品店の店長が懸念していたように、やはりダンジョン内は薄暗かった。
この世界にもランタンはあるけど、それだと片手がふさがってしまい何かと不便だ。
そのためにもこのヘッドライトが役に立つ。
「さすがは店長さんの見立てっすね。これなら進むのにも苦労しないっす」
「そうだな。あそこはぜひ今後も贔屓にさせてもらおう」
あと、日光が当たらないということもあってじっとりとした湿り気がある。
「思っていたよりも通路が狭いな」
「奥に行くほど広がっているのかもしれないっすね」
「そう願いたいものだな」
足元もデコボコしているし、現状では歩きにくくて仕方がない。
まあそれがダンジョンらしいといえばらしいんだけど。
さらに進むと、竜崎くんが予想した通り、奥は天井も高くなって道幅も広くなっていった。
歩きやすいと安堵するが、同時にモンスターが潜んでいても不思議ではないサイズであることに気づく。
いよいよご対面――になるのかな?
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