第52話 準備

 新たにオープンしたキャンプ用品店でダンジョン探索用のアイテムを調達してきた俺たち。

 ちなみにこの時の出費で初任給のほとんどが消滅。


 ……これ、経費で落ちないかな。


 まあ、個人でも今後使用する機会が多そうなのでよしとしよう。

 どのみちキャンプ用品を購入するつもりだったしね。


 それより収穫だったのはあのお店だ。


「店長さん、いい人っすよね」

「ああ。最初見た時は殺し屋みたいなオーラを放っていたけど、話してみたら気さくで優しい人だったよなぁ」


 俺たちは平日の昼間に訪れたから他にお客さんもいなかったけど……変に誤解されていないか心配だな。この前みたいに少しでも会話をしてくれたら、店長さんの人柄も分かってお客さんもたくさんつくと思う。


 人相以外は完璧なんだよ、あの人。


 気を取り直して……ログハウス内では俺と竜崎くんのふたりで買ってきたアイテムの整理を行う。

 ルナレナ様は未確認生物の検証動画を視聴中。

 ……いや、神様なんだからその生物がいるかいないかくらい分かるだろってツッコミを入れようとしたけど――


「これは創った記憶ないわね」


 ちゃんと神様視点で動画を楽しんで(?)いた。


 とりあえず大人しくしているので今のうちに準備を進めてしまおう。


 一緒に買ってきたリュックへアイテムを詰め込んでいくのだが、キャンプ用ナイフを手にした時、思わず動きが止まった。


「もしかしたら……モンスターと戦うかもしれないんだよな」


 物凄く今さらなんだけど、ちょっと怖くなってきたな。

 あっちの世界で言うならクマとかイノシシになるのか?


 いや、たぶんもっと獰猛だし、体格とかも段違いなんだろうな。平気で三、四メートルくらいのバケモノが出てきそうだ――って、モンスターなんだから当たり前か。


「矢凪さんって格闘術とか習ってないんすか?」

「高校生の時に体育で柔道やらされたけど、もう二十年くらい前の話だしなぁ。おまけに途中で受け身に失敗して肩を脱臼しちゃって、それからほとんど見学だったし」

「それはなんとも……」


 フォローの鬼と勝手に呼んでいる竜崎くんでさえ苦笑いするほどの格好悪い高校時代。

 しかし、俺の戦闘力をこれほどしっかり伝えられるエピソードは他にないだろう。


「安心しなさい。モンスターならホーリスが蹴散らしてくれるから」

「えっ?」

「いやまあ、戦えなくもないっすけど……何が出てくるか分かんないっすからね」


 歯切れの悪い竜崎くん。

 ひょっとして、本当はとんでもない実力者?

 落ちこぼれっていうのも聖竜族基準であったのならそれも納得だ。


「俺もダンジョンに入るのは初めてなんで、どんなモンスターが出てくるかまったく分からないんすよ」

 

 それでちょっと自信なさげだったのか。

 そんな竜崎くんの発言を受けたルナレナ様は大きくため息をつきながら続ける。


「何言ってんのよ。あんたならワンパンで大概のモンスターは蹴散らせられるわ」

「凄っ!?」


 これは頼もしい。

 先頭面での不安が解消されれば、ダンジョン探索は一気に難易度のハードルが下がる。


 なんかちょっと楽しみになって来たぞ!

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