第51話 ダンジョン談義

 厳つい店長フェイスを至近距離から目撃した俺は一瞬「ヒュッ」と声にならない悲鳴をあげたが、すぐに持ち直して平静を装う。


「な、何か?」

「キャンプへお出かけですか?」

「っ! え、えぇ」


 まさか「異世界のダンジョンへ探索に出るんです!」とは言えないよなぁ。地元でこれほど品揃えよくていい感じにこじんまりとしているお店って他にないから今後も重宝したい。なので、本当のことを言ってややこしい状況となり、出禁になりかねない発言は控えておきたいと考えた結果の発言だった。


 ――と、ここである閃きが。


 確かに俺たちがダンジョン探索へ出るなんて大っぴらには言えないけど、それとなく尋ねて店長オススメのアイテムを見繕うっていうのもアリだな。


 というわけで、早速行動開始。


「あの、店長さん」

「何か?」

「ダンジョンってご存知ですか?」

「えっ? ダンジョン?」


 まずい。

 いきなり直球すぎたか?

 なんかさっきより表情が険しくなっているような……ここはなんとか誤魔化して別の話題を振ろうとしたのだが、事態は思わぬ展開に。


「もしかして……お好きだったりします?」

「へっ? す、好きって?」

「異世界モノのラノベやマンガです」

「あっ、そっち方面の!」

「どっち方面だと思われたのですか?」

「いやその……ゲーム系かと」


 まさかリアル方面だとは思うまい。

 でも、店長ってそっち系の作品が好きなのかな?


「私もその手のゲームはよくプレイしましたからお気持ちは分かります。ただ、最近はすっかりラノベにハマりまして」

「は、はあ……」


 こう言っては何だけど……意外だ。


「中でも私は要塞を村にする作品とダンジョンに農場を作る作品が好きなんです」

「あぁ、それなら僕も知っています。どちらもコミカライズ化してますもんね」


 俺もその作品はよく読んでいたな。

 どちらの主人公もチートジョブ持ちだったりチートアイテム持ちだったり、おまけに可愛いヒロインもたくさん出てくるからいいんだよ。


 ……俺の異世界転移とはえらい違いだ。

 ルナレナ様は間違いなく美少女なんだろうけど、創造の女神だからなぁ。

 あの二作品の主人公が羨ましいよ。


 まあ、こっちはこっちで楽しくやれているからいいけどさ。


「おや? どうかしましたか?」

「あっ、そ、その……俺も一度でいいからたくさんのヒロインに囲まれたいなぁと」

「その前に転生か転移が必要ですな」

「……それはもうできてるんだけどね」

「何か?」

「いえ別に」


 最近はすっかり生活ベースが異世界になっているなんて言えないよな。

 転生やら転移に夢を抱いているようだし、ここは黙っておくとしよう。


「おっと、すいません。話題を逸らしてしまって。ダンジョンがどうかしましたか?」

「そうでした」


 俺もすっかり忘れていたよ。


「仮に店長さんが異世界転移をして、ダンジョンに挑まなければいけなくなった時……この店の中にあるアイテムを使うとしたら何をチョイスしますか?」

「ほぉ、それは面白い質問ですね」


 途端に店長さんの目が輝く。

 この人……全身から漂うオーラとは裏腹に意外とノリがいい?

 というか、普通にいい人なのでは?


「まずはやはり食料が心配になりますから、水と保存食は必須でしょう」

「なるほど」


 湯煎できればすぐに食べられるというのもいいな。

 

「あくまでも私の知る範囲でのダンジョンだと、こちらでいう洞窟に近い形でしょう。そうなると薄暗く、足元も悪いことが想定されます」

「ふむ、確かに」

「こちらのヘッドライトと安全靴、さらに作業用手袋もあれば万全かと」

「おぉ!」


 さすがはその道のプロ。

 俺が考えつかなかったアイテムがいろいろと出てきたな。


「ちなみにそれぞれの必要アイテムの中でも店長がオススメする物ってどれですか?」

「そうですねぇ……」


 強面店長は店内にある商品からいくつか見繕い、その性能を丁寧に説明してくれた。

 ちなみに途中から竜崎くんも加わって使い方などを一緒に勉強し、ルナレナ様はずっとネコちゃんと戯れていた。


 ――で、あまりにも俺たちが熱心に聞き入るものだから店長さんもさすがに何か勘づいたようだ。


「あなた方はもしかして……洞窟探索にでも出かけるのですか?」

「えっ!?」


 さすがに気づかれるか。

 

「そ、そんなわけないじゃないですか。いやだなぁ。俺たちはキャンプが趣味の善良な一般市民ですから。ねぇ、竜崎くん」

「矢凪さんの言う通りっす」

「ははは、冗談ですよ」


 咄嗟に誤魔化したけど……実はもうひとつ聞きたいことがあったんだよな。

 もうちょっと踏み込んでも怪しまれない、か?


「あの、店長さん」

「なんでしょう?」

「仮に……仮にですよ? 店長さんがダンジョン探索へ出たとして、万が一モンスターと遭遇するなんてことになったら――この店にあるどの商品で立ち向かいますか?」

「モンスターですか?」


 再び飛び出す突拍子もない質問。

 しかし、ここでも店長はノリノリでキャンプ用のナイフをいろいろと見せてくれた。


 ……どうやら、この店には今後もいろいろとお世話になる機会が多くなりそうだ。


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