第39話 感謝
一瞬にして人気者となったマルディーニさん。
ルナレナ様の方も動物たちと戯れてご満悦。
残された俺と竜崎くんは少し離れた位置にあるベンチに座って状況を見守っていた。喋れないとはいえ、異世界で生まれ育ったウサギだ。どこでボロが出るか分からないので、何かあったらすぐに回収しようと考えたのだ。
「それにしても、今日は暑いな」
「もう六月っすからね」
「六月、か……六月!?」
思わず大声をあげてしまった。
先ほど曜日感覚がなくなっているって思ったばかりだけど、曜日どころか日付さえ確認していないから時間の経過が早く感じる。
「もう一年の半分が終わったのか……」
「魔境の方は四季の変化が分かりづらいっすからね」
「おまけにあのログハウスは常に生活しやすい気温が保たれているからなぁ」
暮らしやすいといえばそうなのだが、裏を返せば風情を感じられない。……いや、それはいくらなんでも贅沢な悩みか。
「これから夏になるなら、夏野菜も育ててみたいっすね」
「夏野菜というと……ナスやピーマン、それからトマトにアスパラあたりかな?」
「いいっすね! あとはそれを使って――」
「「夏野菜カレー!」」
お互いの意見がガッチリ合ったことで思わずハイタッチを交わす。年甲斐もなくはしゃいでしまったので周りからクスクスと笑われてしまったが、不思議と悪い気はしなかったな。
たぶん、心から嬉しいと思えたからだろう。
「……竜崎くん」
「なんすか?」
「君には本当に感謝しているよ」
「ず、随分急っすね!?」
真剣な口調でお礼を言われるとはさすがに予想していなかったらしく、いつも飄々としている竜崎くんにしては珍しくちょっと動揺している。
「あの時、俺が自然公園で君に会わなかったら、今も暗い顔で会社に行っていたと思う。生きているのか死んでいるのか分からないような生活が続いていただろうなって」
「お礼を言いたいのはこっちっすよ。おかげで俺も毎日が楽しくなっているっすから」
小さく笑いながら、竜崎くんは言う。
彼も同じように思っていてくれたのなら、俺も嬉しい。
とはいえ、ルナレナ様のもとへ転職してからはまだ実績らしい実績がない。
給料も払われているみたいだからもっとしっかりと――
「あっ」
そこまで考えてあることを思い出す。
今が六月ということは……ルナレナ様のもとで働き出して一ヵ月が経った。
つまり――給料が振り込まれているはずなのだ。
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