第40話 初めての給料

 竜崎くんとの会話をしている途中、俺は給料の存在を思い出した。


 ……以前の職場だったらあり得ないな。

 給料もらうためだけに働いていたようなものだし。


 でも、今の職場――魔境での生活ではあまりそういった欲はなかった。まあ、やっていることはサラリーマン時代とまったく違うし、変な縛りはないし、嫌な上司もいない。


 ちょっと変わった動物たちと交流しながら異変を調査するって業務だ。

 ぶっちゃけ、何が成功で失敗なのかいまひとつ掴み切れていないうえにまだ目に見える実績をあげたわけじゃないので給料が振り込まれているかどうか分からないけど。


 ……歩合制じゃなかったよな?


 ともかく、口座を確認してみたくなったので、竜崎くんに相談してみる。


「なら、この場は俺に任せてくださいっす。ルナレナ様とマルディーニさんは俺が見ておくので」

「い、いいのか?」

「初めてのお給料っすからね。気になるのは仕方ないっすよ」

「ありがとう、竜崎くん」


 俺は竜崎くんから車のキーを借りると、一旦トンネルを通って魔境にあるログハウスへと戻って通帳を持ち出すと再びトンネルを通って最寄りの銀行へ向かった。

 到着するとATMへ真っ直ぐ進み、口座をチェック――すると、そこには驚くべき数字が刻まれていた。


「お、おぉ……本当に入っている……」


 ホントに振り込まれていたよ、給料。

 これ一体どういう仕組みなんだ?

 異世界にもATMがあるとか?


 それ以前に……このお金は普通に使って大丈夫なお金なのだろうか。いや、払い出されるのはこの機械なのだからちゃんとしたお金であるのは間違いない。


「し、信じられないな……」


 通帳を持つ手が震える。

 本当に振り込まれていたっていうのにも驚いたが、何より金額も凄い。サラリーマン時代よりも十万以上高いぞ。


「こんなにもらっちゃっていいのかな……」

「どうやら金額に満足はしてくれたみたいね」

「うわっ!?」


 ジッと通帳を眺めていたら、いつの間にかルナレナ様が立っていた。


「ど、どうして!?」

「あら、私は女神よ? 瞬間移動くらいできて当然でしょ?」


 満面の笑みで答えるルナレナ様。

 言われてみればそう……なのか?


「それで、どうするの?」

「どうする、というのは?」

「初任給の近い道よ」

「使い道……」


 給料の使い道、か。

 そういえば、サラリーマン時代はろくに考えもしなかったな。


「うーん……新しいキャンプ用品でも買いましょうか」

「いいんじゃない。あっ! 私、燻製ってやってみたい!」

「おぉ! 実は俺も前から興味あったんですよ! 竜崎くんも連れて買いに行きましょう!」

「そうと決まったら戻るわよ」


 ルナレナ様は足取りも軽くササッと車の助手席に乗り込んだ。


「あれ? 瞬間移動は?」

「いいの。今は車に乗りたい気分だから」


 やれやれ。

 気分屋な女神様だな。

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