第18話 それは果たしてシカなのか?

 目の前に現れたのは……たぶんシカだ。

 いや、外見上はどう足掻いたってシカなのだが、断言できない理由がいくつかあった。


 まずひとつ――デカい。


 デカすぎる。

 三メートル近くあるぞ!?


 元の世界の外国にはあれくらいデカいシカもいるらしいが、それにしたってあそこまで大きくは成長しないだろう。


 同じくらい気になるのはあの角だ。

 体が大きいのだから角も大きくなるのは理解できる。

 だが、あのいびつな形は何なんだ?

 

 昔見た、世界的に評価されているアニメ映画にも似たようなのがいた気がするけど……こっちはもっとこう、禍々しいというか、左右非対称でなんだか気味が悪い。あと、木々が生い茂るこの魔境の中では動きづらそうだ。


 そして何より――


「おはようございます」


 こっちも普通に会話できるんだよなぁ。


「初めまして。俺たちは創造神ルナレナ様からの命を受けてこの森を調査している者で、断じて怪しくはないっすよ」


 竜崎くんよ。

 それでは逆に「私たちはめちゃくちゃ怪しいですよ」と自己紹介しているようなものじゃないか?


「おや、そうでしたか。ご苦労様です」


 信じちゃったよ……疑うってことを知らないのか?

 だが、そこにはちゃんと理由があったようだ。


「この魔境に人間が足を運んだのはかれこれ数百年前……それ以来は避けられているようですので、何かしら大きな理由がなければ立ち入らないでしょうからね」

「数百年って……あなたもそれほどの長生きを?」


 あまりにも貫禄ある喋り方をするものだから、シカ相手に思わず敬語を使ってしまった。

 でも、それが自然に出てしまうあたり、やはりこのシカは只者ではないと思う。


 ――いや、ちょっと待て。


「先ほど人間が足を運んだとおっしゃられていましたが……あなたはこの世界の人間とお会いしたことがあるのですか?」

「本当に大昔の話だよ。まだここが魔境と呼ばれていなかった頃さ」


 ……当たり前の話だけど、こっちにも人間はいるんだよな。


 異世界の人間か。


 機会があれば会ってみたいものだ。

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