第11話 魔法使いアラフォーおっさん
クマのグリズはかつて俺にそっくりな人を目撃したという。
それが果たしてどんな人であったのか個人的に大変興味があるのだが、どうにも記憶が曖昧でハッキリとは思い出せないらしい。
――で、なぜかその後の探索にグリズもついてくることに。
「こうして森を歩くのは新鮮ね~」
上機嫌でついてくるグリズだが……正直、気が気じゃないんだよなぁ。
人間と会話ができるし、知能も高いっていうのは十分理解できた。
しかし、見た目は誰がどう見てもクマだ。
なかなか慣れないというか、まだちょっと恐怖心が勝っているな。
最初はぎこちなさがあったものの、慣れというのは不思議な物でそれも少しずつ解消されていった。たまにテレビで猛獣と暮らしている酔狂な外国人の映像を見るが、あの人たちが平然としている理由がほんの少しだけ分かったような気がする。
そんな調子で一時間ほど歩き続けたのだが、そろそろ足が限界だ。
「す、すまない……ちょっと休ませてくれないか……」
「いいっすよ」
「あら、もう休憩?」
手近にあった岩に腰を下ろして深呼吸する。
「いい空気だなぁ……」
キャンプを始めるようになってから一番変わったのは空気の味が分かるようになったことだと個人的には思う。
普段まったく気にしていなかったのだが、森で深呼吸をした際に肺へと流れる空気は町中で吸う空気と明らかに違う。
具体的にこうだという説明こそ難しいのだけど、明確に異なるのだ。
……ただ、疲労回復の効果はそれほど高くないらしい。
「というか、帰りは来た道を戻らなくちゃならないのか」
「その必要はないっすよ」
「えっ? どういう意味?」
「俺、転移魔法が使えるんで」
サラッと魔法ってワードが出てきたよ。
さすがは異世界だ。
特に竜崎くんは聖竜族というドラゴンの中でも最上位種に位置づけられているらしいので魔法のひとつやふたつ扱えない方が逆に不自然というものか。
「今日のところはこの辺で引き揚げるっすかね」
「それは助かるが、そうなるとまたこの場所まで来ないとな」
「俺の転移魔法があれば明日もここから再スタートができるっすよ」
「そいつはいい。本当に便利なんだな、魔法って」
こういう世界に身を置くなら、俺も魔法ってヤツを使ってみたいものだ。
まあ、アラフォーで元社畜のおっさんには無理か。
「俺もこの世界に生まれていたら魔法を使えたかもしれないのか……」
「使えるっすよ?」
「……えっ?」
まさかの返答に俺は固まるのだった。
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