第10話 いきなり大ピンチ!?
まるで某童謡にある歌詞みたく、森の中で巨大なクマと出会ってしまった俺と竜崎くん。
「りゅ、竜崎くん! く、クマだよ!」
「あー、クマっすね」
「緩い!?」
この緊急事態にもかかわらず、竜崎くんはいつもの調子だった。
それに対し、灰色のもふもふとした体毛で覆われた巨大クマはのっそりと移動を再開。その鋭い眼光は俺たちをバッチリ捉えていた。
「く、来るぞ!」
「矢凪さん、クマって動く物に反応するらしいっすからあんまり動かない方がいいっすよ」
「な、なるほど」
確かに俺も聞いたことがある。
しかし……これを耐えるのはなかなか難しいぞ。
明らかに向こうはこちらへ狙いを定めて移動しているし、全力で走りだしてきたらひとたまりもないぞ。
「まあまあ、相手は物分かりのいい子ですから。そう慌てることもないですよ」
「ホーリスさんの言う通りですよ」
「確かに――うん?」
あれ?
今誰の声だ?
ていうか、ホーリスって確か竜崎くんのこちらでの呼び名だよな?
と、とにかく、現状の確認だ。
この場にいるのは俺と竜崎くん、それともっふもふのクマ。
――って、クマ?
「クマが喋った!?」
「そりゃ喋りますよ。クマですよ?」
「俺の感覚がおかしいのか!?」
何をバカなことをって感じに語る竜崎くん。
その横では巨大クマが「うるさい人ですね」とあきれたように言う。
いやいやいやいや。
やっぱりこっちがおかしい――と、思ったけど、よくよく考えたらここは異世界。俺がこれまでの人生で培ってきた常識が通じなくてもなんら不思議ではないのだ。
「あっ、ちなみにホーリスっていうのは俺のこっちでの名前っす」
「それはさっきルナレナ様から聞いたよ」
「あれ? そうでしたっけ? 別に竜崎のままでもいいんすけど、竜崎ってこちらの世界の住人には発音しづらいみたいで」
「そ、そうなんだ」
話をしている間もすぐ近くにクマがいるので気が気じゃないんだが、今目の前で話している竜崎くんはドラゴンなのだから本来クマよりもずっと怖い存在なんだよな。
そう認識を改めると、なんだか怖さが薄らいだ気がする。
「……ほ、本当に襲ったりはしないのか?」
「えぇ。あなたのことは事前にホーリスさんから聞いていますので」
「そ、そうなんだ」
「私はグリズ。よろしく」
「ど、どうも。矢凪隆也です」
クマと普通に自己紹介をしているこの現状……なんだか妙な気分だ。
これもまた、あっちの世界じゃ体験できないことだな。
「それで、今日は何をしにこちらへ?」
「矢凪さんに新しい職場を紹介しているんすよ」
「ヤナギさん? でも彼は――いえ、きっと人違いね。あの人によく似ているけど、雰囲気がまったく違うもの」
「あの人……?」
俺が誰かに似ている?
この世界で俺に似ている人なんているのか?
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