第9話 魔境探索

 転職先である異世界の魔境。

 もうこの単語に驚くことはなくなったけど、それより問題なのは俺がこちらの世界の常識などについて疎いという点だ。

 同行してくれている竜崎くんの話では、現在俺のいる魔境とやらに入ってくるこちらの世界の人間はいないため、接触自体ないらしいが……それはそれでちょっと寂しいかも。


 一応、言語は日本語でも通じるようにルナレナ様が調整してくれているようだ。


 ……まあ、会ったところで何をするんだって話だよな。

 ただでさえコミュ障なのに別の世界の人間と仲良くなれる気がしない。

 魔境を散歩中にそんな話をすると、竜崎くんは不思議そうな表情を浮かべた。


「矢凪さんって、コミュ障なんすか?」

「まあね」

「でも俺とは普通に話せているじゃないっすか」

「それは俺の性格というより君の明るさに引っ張られている面が大きいかな」


 竜崎くんはこちらの世界出身らしいが、その性格は紛れもなく陽の者。聖竜族というのがどういった種族なのか把握しきれてはいないが、名前からしてとてつもなく上位っぽさが漂っているし、きっと貴重な存在なのだろう。


 そんなことを考えながら歩いていると、


「おや?」


 視界の先に見えたのは野生のシカだった。


「こちらにも鹿はいるんだな」

「基本的に矢凪さんのいた世界と動物の種類は変わらないっすよ。中には変異してモンスターになったのもいるっすけど」


 ファンタジーものの定番だよな。異世界なのにどうして俺たちのいる世界と同じ動物がいるんだって思ったことはあるけど……創った神様が同じだったらかぶるのも致し方ない――のかな?

 

 ただ、ここである疑問が浮かんだ。


「俺の生まれ育った世界と同じ動物が生息しているんだよね?」

「そうっす」

「なら……山の中で出会いたくはない動物とかも?」

「いるっすね」


 あっさりと認めちゃったよ。

 いや、変に誤魔化されてもそれはそれで困るんだが、いると分かったら暢気にぶらぶら歩いているのは危険じゃないのか?

 

 異世界に来たといっても、俺は別にルナレナ様から特別な力とか授かっていない。

 武器もないし、野生動物を素手で倒せるようなパワーも技術も知識もない。


 この状態で遭遇するのは大変危険なのではないか――という相談を持ちかけようとしたまさにその時、この場でもっとも出会いたくなったヤツが姿を見せる。


「グルルル……」


 低い唸り声とともに現れたのは体長三メートル近くある巨大クマだった。


「クマだぁっ!?」

「クマっすねぇ」


 なんか温度差を感じるんだけど!?

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