第36話 夏休み③

母への想いは消化しきれないまま夏が過ぎていった。

休みをとってまでホテルで一緒に遊んでくれて、たくさんお金も時間も心も使ってくれたし、感謝の思いを指先にのせて送信はした。

だが、どうしても悲しみが消えなかった。

思いには蓋を閉じて、子供達と夏を満喫していたら、ちょうど旦那が有給を取ってくれた日に倒れた。

また肺炎を起こした。

去年も、無理をし続けて体に鞭を打って育児をしていたときに、肺から血が出た。

私はどうやら本当に体が弱く、人よりも体力がなく、休まず遊び続けると肺炎を起こすらしい。

元々喘息体質だったこともあり、肺が弱いのかもしれない。

高熱、頭痛、咳…

弱っているときはいつも我慢していることができない。

母に言われたことを思い出して苦しくなった。

先輩に電話をかけて相談した。

先輩はバッサリと切ってくれた。

『親に期待しないで、自分が変わった方が早いよ。』と。

『どう感じるかはあなた次第なんだよ。

お母さんは、くーちゃんを思って優しさで、漢方薬を勧めてくれたんじゃないかな。

あなたが、どう受け止めていくかなんだよ

それを否定されたと捉えて傷つくのか、感謝するのか…』

なんとも厳しいアドバイスではあった。

だが先輩が言っていることは全て正しいと感じた。

私次第か…

でも、私はどう変わりたいんだろう。

どう受け止めていきたいんだろう。

全然答えが出なかった。

それから日が経ち、肺炎は無事に治って、母校のオープンキャンパスへ行った。

自分がでた大学へ子供たちを連れて行きたかった。

私が出た学科がなくなるとのことで…

その前に連れて行きたかったのだ。

旦那に運転してもらい1時間半ほどで山の上にある大学についた。

あの頃の希望に満ちた心が蘇るような、また自分のふるさとに帰ってきたかのような不思議な感覚だった。

学長にも会えてたくさんお話ができた。

卒業生たちの活躍も聞けて、自分を振り返ることができた。

私は卒業生として、どう生きていきたいんだろう。

どんな思いで大学に入って、卒業したんだろう…と。

たくさん想いを馳せて、答えがでた。

家に帰ってから、すぐに先輩へメッセージを送った。

私は、お母さんのことも包んでいける自分になりたいと思った。

いつも求めてばかりだった。

母も、辛い思いをしてきたのを知っている。

だから優しくする方法を知らないだけで、私や兄弟たちに愛情はある。

母はいつでも頑張っていた。余裕がなく怒鳴り散らしたり、叩いてきたが、母もきっと私たちに優しくしたいと葛藤してきたと思う。

現に優しい時もあった。

今回の旅行も、母なりに頑張ってくれた。

もう母には求めることをやめて感謝の思いを伝えて行きたい。

私より年上だけど、私の母だけど、そんなことは関係なく私が包んでいけばいい。

私自身が母を理解して、受け止めて行きたい。

感謝していきたい!

と心から思えたときに、自分が変われた気がした。

もちろん人間だから母にカッとしたりけんかをすることもあると思う。

だけど今までとは違う受け取り方をできる気がした。

今回オープンキャンパスにこれて、本当に良かった。

そして、またくーちゃんのおかげで成長できた気がした。

自分だけではきっと気付けなかったもの、ぶつからなかったものにくーちゃんがきっかけで、遭遇できたんだと思う。

漢方の件はひとまず置いといて、くーちゃんが癇癪を起こしたときは寄り添って行こうと思った。

彼が怒っていることを理解して、一緒に怒っていく。

実際に今日も彼がゲームに対して癇癪を起こしたのだが

まず何に対して腹を立てたのか聞き

『そりゃいらつくよね!悔しいし怒りたくもなるわ』

と同苦したら、すぐに落ち着いた。

もちろんケースバイケースにはなるし、叱らなくてはいけない時はそうするが、まずは彼の立場に立って考えて行こうと思った。

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