第33話 体操の先生の話


くーちゃんが4才の年中だった頃、体操教室に通った。

幼稚園が終わった後に、体操の先生が幼稚園の体育館まできて教えてくれるのだ。

やりたい!と言っていたのでさせたのだが…

親バカな私から見ても、本当に運動が苦手なんだなと思うくらい出来てなかった(笑)

私と同じで先生の言った通りに体を動かすのが苦手なようだった。

例えば両手と両足が床についた状態、つまり四足歩行で走りなさいと言われても、くーちゃんだけが膝をついてハイハイのように四つん這いになって走っていた。

(これは…私が2歳の頃にやめてくれとバレエ教室から言われたように、クビになるのでは?)

と懸念をしたので先生に尋ねたが

『こちらから辞めてというのとはないので安心してください』

と笑い飛ばしてもらえた。

そんな体操教室で、胸に響くというか刺さった先生のご指導があった。

コロナ禍ということもあり、本来なら毎回参観できていた体操教室は、当時半年に一度くらいしか特別にみることができなかった。

とてもワクワクしてスマホのカメラをまわしていたのだが…

本当にできていない。

はたからみたら、体操が苦手というよりは先生の言うことを聞かない問題児だったと思う笑

指示通りに動けずに1人だけ違う行動をしていて、正直私はショックを受けていたし、周りの邪魔になることはやめてと注意したくもなっていた。

そこを見抜いたのかどうかはわからないが、先生が大事なお話をしてくれた。

『みなさん、自分の子供には期待しちゃいますよね。でも、できなかったことではなく、できたことに目を向けてあげてください』

そう切り出したあと、体験を話してくれた。

『私は長男に本当につらい思いをさせました。周りから体操の先生の子供ということでかなり期待をされていました。でも本当は長男は体操が得意ではなかったんです。なのに、親だから期待してしまって…悲しい思いをさせてしまいました。だからみなさんは今、できないことに目がいってしまっても、どうかできることを褒めてあげてください』

というご指導だった。

今思い出しても泣けるくらい、胸に刺さったお言葉だった。

私はまさに出来ないことばかり気付いて、できたことを褒めていなかった。

これは体操だけではなく、くーちゃんと向き合うに当たって全てに通ずる指導だった。

これからはできることに目を向けようと思えた。

私の子育てにおいての指針と言っても過言ではないくらい重大な出来事だった。

思い返してみれば私は絵が得意だが、だからと言ってくーちゃんに遺伝するとかは考えたことがない。でももしも私が画家とかプロだったら周りはきっとその子供も絵が上手いはずだと思ったに違いない。

親もまわりも、みんな子供には期待をするもんなんだと感じた。

もちろん子供の可能性を信じるのはいいことだけれど、プレッシャーに感じさせて、苦しませてはいけない。くーちゃんに悲しい思いをさせないためにも、体操が終わってからは出来ていることを探して見つけて考えて、褒めるようにした。

早めに気付かせてくれた体操の先生に、感謝しかない。これからもどんどん褒めて、くーちゃんが可能性を無限大に開いていく道を一緒に導いていく親であろうと決意をした出来事だった。

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