第13話 容赦しない

昨日の事件のせいで街道には頻繁に兵士の姿が見られ、その中には昨日にコオリと顔を見合わせた兵士も混じっていた。



「あ、確か昨日の……」

「ん?確か君は通り魔に襲われた子じゃないか!!」



コオリが兵士に話しかけると相手も彼に気付き、兵士はコオリが一人で街道を歩いている事に気付いて注意する。



「君、もしかして一人で出歩いていたのかい?昨日も襲われたばかりだというのに一人で行動するなんて危ないじゃないか!!」

「す、すいません。でも、どうしても済ませないといけない用事があって……」

「悪い事は言わないから早めに帰りなさい。昨日の事件のせいでこの地区に回される兵士は増員されたけど、それでも絶対に安全というわけじゃないんだ。僕達の目が届かない場所に連れ出された助ける事はできないからね」

「あ、はい……分かりました」

「さあ、早く用事を済ませて帰りなさい。勿論、帰る時も気を付けるんだよ」



兵士に叱られたコオリは頭を下げてその場を立ち去り、彼の話から察するに事件の犯人は未だに逃亡中の様子だった。通り魔が捕まっていればコオリも安心して外に出られるのだが、仕方なく彼は兵士の言う通りに早々に用事を済ませるために魔法学園に向かう事にした。


地図を確認しながらコオリは魔法学園までの道のりを歩き、遂に魔法学園らしき建物を発見した。魔法学園は四方を鉄柵に取り囲まれ、コオリがこれまで王都で見てきた建物の中でも一番の大きさを誇った。



「うわぁっ……こ、ここが魔法学園なのか」



魔法学園の出入口の門の前にコオリは立ち止まり、改めて驚かされる。魔法学園はコオリが暮らしていた孤児院よりも十倍以上の敷地を誇り、しかも門の前には見張りの兵士まで待機していた。


兵士が配置されている事から魔法学園がヒトノ王国にとってどれほど重要な施設なのか思い知らされ、こんな場所に自分がこれから通うのかと緊張しながらもコオリは出入口に向かうと、門番の兵士が枯れを引き留めた。



「ん?ちょっと待った!!君はこの学園の生徒かい?」

「え、いや……」

「それなら近付いたら駄目だよ。ここに入れるのは学園の関係者だけだからね」

「さあ、早く行った行った!!こっちは忙しいんだ!!」

「おい、子供相手にきつい事を言うなよ」



門番の兵士は二人存在し、どちらも年若い男性だった。片方の兵士はコオリに優しく語り掛けるが、もう片方の男性は渋い表情を浮かべてコオリを追い払おうとする。しかし、ここまで来た以上はコオリも引き下がるわけにはいかない。



「あの、実は僕は……」

「きゃあああっ!?」

「と、通り魔だぁっ!?」

「何だと!?」

「通り魔だって!?」



コオリが自分が魔法学園に入学するために訪れた事を伝える前に街道に悲鳴が響き渡り、門番の兵士達は声のした方に顔を向ける。そこには街道で逃げ惑う人々の姿が見え、慌てて兵士達は駆け出す。



「通り魔は何処だ!!」

「ええい、退け!!」

「あ、ちょっと!?」



兵士達は通り魔を探すために駆け出し、慌ててコオリはそれを追いかけようとした。しかし、通り魔が現れたのならばコオリはここに居るのは危険であり、通り魔に見つかれば今度こそ殺されるかもしれない。


昨日にコオリは通り魔に襲われた時の事を思い出し、嫌な予感を抱いたコオリはその場から駆け出す。一刻も早くこの場を離れるためにコオリは駆け出し、街道を逃げ惑う人々に巻き込まれないように気を付けながら移動する。



(こんな時に現れるなんて……くそっ!!)



やっと念願の魔法学園に辿り着いたというのに通り魔が現れたせいでコオリは入学手続きが行えず、だんだんと通り魔の男に対して怒りを抱く。しかし、この状況で男が現れた事にコオリは違和感を抱く。



(でも、どうして急にあいつがここに現れたんだ?)



昨日の時点では男は人目を避けて路地裏で子供を攫って犯行に及ぼうとした。だが、今回は街道に男が現れたという事にコオリは違和感を抱き、彼は足を止めて考え込む。


自分が魔法学園に入ろうとした瞬間に男が現れた事にコオリは嫌な予感を抱き、もしも男が現れたのが偶然ではなかった場合、考えられるのはコオリを狙って男が現れたという事になる。



(そんな馬鹿な……有り得えない!!)



コオリは緊張しながらも後方を振り返り、人込みの中から怪しい人物がいないのかを探す。そして彼は人込みに紛れて自分に近付こうとする全身をローブで包み隠した人物を見つけた。



(まさか!?)



逃げ惑う人々を巧みに避けながらコオリに近付く人物が存在し、その人物が身に包んでいるローブの隙間から顔を覗くと、両目は血走らせながらコオリの事を睨みつけていた。



「見つけたぞ……ガキィッ!!」

「うわっ!?」



人込みの中から自分に向けて近付いてくる男の姿を発見し、昨日の今日で男と遭遇する事になるとは思わなかったコオリは表情を引きつらせる。



(こうなったら魔法で……いや、駄目だ!!ここだと人が多すぎる!!)



街道には逃げ惑う人々が行き交い、下手に魔法を使えば一般人を巻き込んでしまう。兵士に助けを求めようにもこんな時に限って街道を巡回する兵士は見当たらず、門番の兵士達も立ち去ったまま戻って来る様子が無い。



(こうなったら俺一人でやるしかない!!)



再び昨日のようにコオリは路地裏に駆け込むと、男はコオリの方から人気のない路地裏に逃げ込んだのを見て笑みを浮かべる。彼としては人目が多い街道よりも路地裏の方が犯行を行いやすく、コオリを追って路地裏に移動を行う。



「に、逃げても無駄だ!!か、必ず、こ、殺す!!」

「しつこい奴だな!!大人しく自首しろよ!!」



相変わらず呂律がおかしい男の声を聞いてコオリは焦りを抱き、路地裏を駆け抜ける。しかし、前回の時はたまたま建物に取り囲まれた空き地に出れたが、今回の路地裏は行き止まりに突き当たり、すぐに逃げ場を失う。



「くそっ、ここまでか……」

「はあっ、はあっ……も、もう、逃がさないぞ!!」



行き止まりに辿り着いたコオリは男に追い詰められ、兵士に気付かれる前にコオリを殺すつもりなのか男は懐から短剣を取り出す。それを見たコオリは杖を構えると、男は昨日のように小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。



「き、昨日は油断したが……あんなちゃちな魔法で俺をた、倒せると思っているのか?」

「ちゃちな魔法……?」



昨日の一件で通り魔の男はコオリがの魔術師のように強力な攻撃呪文を使えない事は把握しており、昨日は不意を突かれて逃げられてしまったが、今回は逃げ道を抑えたのでコオリを確実に始末できると考えていた。


実際に昨日の時点でコオリが男を撃退できたのは相手が油断していた事、そして近くに人がいた事が大きな要因だった。しかし、今回は他の人間の助けは期待できず、コオリは自分自身の力で切り抜けなければならない。



(舐めやがって……思い知らせてやる!!)



コオリは杖を構えると男は慌ててマントで身を隠す。どうやらコオリの魔法をマントで防いで急所だけを守るつもりのようだが、それを見たコオリは笑みを浮かべた。



(やっぱり、昨日の事を気にしてるな。けど、そんなマントで俺の魔法を防げると思うな!!)



昨日の一件で男はコオリが「氷の破片」しか飛ばせないと思い込んでいる様子だが、今回は手加減せずにコオリは杖を構えると本気の魔法を仕掛けた。



「アイス!!」

「そんなもの……ぎゃああっ!?」



呪文を唱えた瞬間、杖の先端から出現した「氷柱」を想像させる形に変形した氷塊が男の持っていた短剣を弾き飛ばす。昨日とは比べ物にならない威力と攻撃速度に男は戸惑う。


昨日は人間相手に本気で魔法を扱う事に躊躇したが、性懲りもなく二度も命を狙って来た相手に手加減する必要はなく、他の人間がいない路地裏ならばコオリも全力で戦えた。

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