第12話 魔法の実験 

「な、何だ、今のは……魔法か?だが、こんなので、お、俺を殺せると、お、思ったのか?」

「くっ……」



は通り魔の男に当てる事はできたが、やはり工夫を加えていない攻撃では人間相手でも怯ませる程度の効果しかなかった。男はコオリが魔法を使える事を知って顔を歪ませる。



「お、お前……魔法学園の生徒だな?だ、だが、こんなちゃちな魔法しか使えないなら、落ちこぼれだな?」

「落ちこぼれ……だと?」



男の小馬鹿にしたような態度にコオリは青筋を浮かべ、再び杖を構えた。先ほどのように氷の欠片でも飛ばしてくるのかと男は身構えた。そんな相手に対して今度は容赦せずにコオリは魔法を繰り出す。



「アイス!!」

「そんなも……ぎゃあああっ!?」



再び杖先から氷塊を生み出したコオリに男は身構えるが、今度はコオリは男の股間に目掛けて氷の破片を放つ。威力は弱くても急所を狙われたらひとたまりもなく、股間んに衝撃と冷たさを覚えた男は膝を崩す。



「こ、このガキ……よくも、俺のジョンソンを!?」

「自分の股間にそんな名前付けてたのか……けど、急所に当てれば俺の魔法も十分に通じる事は分かったよ」



男を実験にしてコオリは自分の魔法でも急所ならば通じると確信し、男が苦しんでいる間に街道にいる人々に大声で注意した。



「誰か来てください!!通り魔に襲われています!!」

「何だって!?」

「と、通り魔!?」

「この奥か!?」



街道を歩いていた大人達がコオリの声を聞き付け、彼等は路地裏で倒れている男とコオリの姿を見て驚く。街道の人間に自分の存在を知られた事に気付いた通り魔は股間を抑えながら立ち上がり、血走った右目で最後にコオリを睨みつける。



「お、お前……絶対、こ、殺してやる!!」

「おい、男が逃げるぞ!!」

「捕まえろ、逃がすな!!」

「あれ?あいつなんで股を抑えてるんだ?」



通り魔は逃げ出すと偶然にも街道を巡回していた兵士が駆けつけ、彼等はコオリを保護すると逃げ出した通り魔の後を追う――






――その後、コオリは屯所に連れていかれて事情聴取を行う。兵士達はコオリに襲われた時の出来事を詳しく聞き、解放されたのは夕方だった。残念ながら通り魔の方は取り逃がしてしまったが、通り魔に襲われていた子供は奇跡的に命は助かった。



「君に助けられた子供の両親がお礼を言っていたよ、本当に危ない所だった。買い物の途中で犯人に攫われて襲われていたらしい」

「そうだったんですか……」

「今回は犯人を取り逃がしてしまったが、君のお陰で犯人の特徴を掴む事ができた。感謝するよ……だが、これからは一人で外を出歩かない方がいい。念のために宿屋まで我々が送るよ」

「あ、ありがとうございます」



兵士は親身にコオリの話を聞いてくれ、わざわざ宿屋までコオリを送ってくれた。犯人がまだ捕まっていない事もあって子供一人を帰らせるわけにもいかず、コオリは宿屋まで送ってもらうと女主人バルルが出迎えてくれた。



「よう、話は聞いてるよ。例の通り魔に襲われたんだって?よく無事だったね」

「まあ……別に大した事はない相手でしたから」

「流石はだね。王都の警備兵も手こずる通り魔を返り討ちにするなんてやるじゃないかい」

「いや、運が良かっただけですよ」



バルルの言葉を聞いてもコオリは表情は晴れず、結局のところは事件は解決したとは言えない。通り魔は未だに捕まっておらず、コオリが手加減などせずに本気で魔法を使っていたら事件は解決していたかもしれない。



(俺の魔法ならあいつの手足を撃ち抜いて止める事はできたかもしれない。けど、人間相手に本気で魔法を使ったら……)



コオリが本気で魔法を繰り出せば男は致命傷を負いかねず、だから二回も魔法を使ったのに手加減してしまった。相手が魔物ならばともかく、犯罪者と言えども人間に対してコオリは魔法を使えなかった。だが、その甘さが後に事件を引き起こす事になる――






――翌日の早朝、朝食の前にコオリは宿屋の裏庭にて魔法の練習を行う。リオンが自分には無理だと言い放った「無詠唱魔法」を試す事にした。



(あいつの話だと一流の魔術師を目指す奴なら無詠唱魔法は扱えて当然みたいだけど……)



口を閉じた状態でコオリは頭の中で魔法を発動する事を念じる。しかし、杖は一向に反応せず、しばらくの間はコオリは何度も魔法を発動しようとするが反応はない。



(くそ、駄目か……あいつの言う通りに俺の魔力じゃ発現できないのか?)



リオンによれば魔力が人よりも少ないコオリでは「無詠唱魔法」の発動に必要な魔力を集められず、魔法の発動その物ができないのかもしれない。



「アイス!!」



今度は呪文を口にしてみるといつも通りに魔法の発現に成功した。だが、この方法では口を封じられた状態では魔法の発現はできない。仮に何らかの手段で敵に口元を封じられた場合、コオリは魔法で対抗する事ができない。


何度か無詠唱で魔法を発動させようとするが上手くいかず、やはり今の時点では呪文を口にしない限りは魔法を扱えそうにない。朝食の時間も迎えたため、一旦諦めて建物の中に戻ろうとした。



「仕方ない、諦めるしかないか……ん?」



建物に戻ろうとした際、コオリは自分の杖の先端に氷塊を作り出したままの状態だと気が付く。この時に氷塊を見てコオリはある事を思いつき、とある方法を試す――






――朝食を終えた後、しばらく時間を潰すとコオリは魔法学園に向けて出発する。今日こそは魔法学園で入学手続きを行わなければならず、女主人バルルに外に出る事を伝えると彼女は難色を示す。



「あんたね、昨日襲われたばかりだろ?それなのにまた一人で出かけるきかい?」

「大丈夫ですよ。一応、身を守る術は身に着けてますから」

「そうかい、それなら気を付けるんだよ。例の通り魔はまだ捕まってないらしいからね」



バルルの言葉にコオリは自分を襲ってきた昨日の通り魔の顔を思い出し、通り魔は逃げる際にコオリに「殺す」と宣告し、未だに捕まってはいないらしい。


通り魔に命を狙われている状態で外に出るのは危険だが、広い王都で通り魔とまた遭遇する可能性は低く、それに今日こそ魔法学園で入学手続きを行わなければならない。早めに入学手続きを終えて学園に入学しないと高い宿代を支払い続けねばならない。



「じゃあ、行ってきます」

「ちょっと待ちな……仕方ないね、それならこれを持って行きな」

「え、これは……」

「随分前にうちに泊まった客が部屋に置き忘れた物さ。多分、もう取りに戻ってくる事はないだろうから貸してやるよ」

「あ、ありがとうございます!!」



女主人は外に出向こうとするコオリに短剣を差し出し、それを受け取ったコオリは驚きながらも有難く受け取る。彼には杖はあるが、やはり身を守る道具を身に着けて置いた方が安心する。


刃物を携帯して歩く事はコオリも初めてなので緊張するが、とりあえずは目立たないように懐に短剣をしまってコオリは外に出向く。昨日の時点で女主人から受け取った地図を頼りにコオリは魔法学園へ向けて出発した。




――しかし、宿屋から出てきた彼を建物の陰から確認する人影があった。その人影は街道を行き渡る人々に混じり、コオリに気付かれないように後を追う。

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