6月15日(土)

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━━━━━━朝



ほんわかとしているような、ぼんやりとしているような、時折、なんて言いたくなるような、そんな気だるげな様子で、朝の大通りをてくてくと歩いていく。

時刻はとっくに九時を回っている。つい先ほど今日の日の出を拝んだばかりだと思っていたら、気づけば太陽が空に昇るには十分な時間が経っていた。


強い日差しに顔面が焼かれるのを感じながら、下に履いた淡い空色のジーンズを見下ろして、これは失敗したかな、と軽く後悔する。


少し汗ばむくらいの距離を歩くと、大通りの始まりに、この街にお似合いの小さな駅へ辿り着く。小奇麗にしているとは思うが、立派とは形容し難い。前からどことなく張りぼてのような印象を抱いている駅だ。


ほんの、ほんの一瞬だけエレベーターを使うか、それとも階段を使うかで逡巡する。だけど、結局はわずか10メートルの距離を歩くのを躊躇って、相対的に自分に近い階段を選択する。

改札へ上がると、まだ夜の空気が残っているのか、少しだけ涼しかった。


その場で少しだけ首を回したあと、視界の端が霞む目を擦って、改札を超える。

右手に握るICカードをポケットに突っ込み、代わりに取り出したスマホで経路図を確認しながら、ホームへ続く階段を下りていく。


天井が低くて、なんとなく狭苦しく感じる階段だ。


ホームへ降りると、奥の方のベンチに、ベージュの帽子を目深にかぶったおじさんが一人で座っているのが見える。


ホームの屋根と屋根の間から覗く空はよく晴れている。

この様子だと、今日はきっと熱くなるだろう。半ズボンでもよかったかもしれない。

まだ電車が来るまでは時間がある。待っている間に、すこしゆっくりしようか、とホームに備え付けられた自販機に手を伸ばす。

伸ばした手を空中に彷徨わせながら、さて何を飲もうと考えている時に、右手のスマホがブルブルと震えて、メッセージの着信を知らせてくれた。






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【ありさ】「おはようございます、先パイ」

【ありさ】「今日はよく晴れてよかったっすね」

【ありさ】「ところで、なんで下り側のホームにいるんすか?」


『おはよう!』

『あれ?経路図に1番線って書いてなかった?』


【ありさ】「一体どこを見たんすかw」

【ありさ】「もう一度よく確認してください」[-(-画像を共有しました-)

をリプライしました-]


『あれ?…2番線やな笑』


【ありさ】「2番線っすねw」


『普通にミスったわ笑』

『ちょっと寝不足でぼうっとしてた笑』


【ありさ】「大丈夫っすか?」

【さりさ】「最近、あんま寝れてないんすか?」

【ありさ】「明け方のメッセージもそれっすよね?」


『うん、まあ、そう』

『とりあえずあのあと寝れたから大丈夫よ!』

『…てか、どこにいんの?』


【ありさ】「それならいいっすけど」

【ありさ】「無理はしないでくださいね?」

【ありさ】「ちょうど先輩の向かい側っすよー」


『あっ、いたわ』

『全然気づかなかった』


【ありさ】「ほんとに大丈夫っすか?」


『大丈夫やで~』

『普通にもっとガッツリ地雷系?っぽい服で来るかと思ってたからぱっと見でわからんかった』


【ありさ】「この前、私から先パイにカジュアルスタイルを進めたっすからね」

【ありさ】「それに昨日、デニムを履いてくって言いましたし」

【ありさ】「先パイのリクエスト通りショーパンっすよ?w」


『笑…これから暑くなりそうだし、俺もショーパンにすればよかったな~笑』

『ちなみに…今日のファッションのポイントは?』


【ありさ】「先パイがショーパンはさすがにきもいっすw」

【ありさ】「うーん、服を買いに行くんで、色々合わせやすいようにデニムのショーパンに白いオーバーサイズのTシャツにしてみた感じっすね」

【ありさ】「あとは黒のハイソックスとスニーカーでカジュアルにまとめてみました」

【ありさ】「アクセサリーはシンプルにシルバーのチョーカーっすね」


『なるほどね~!ちょっと意外だったけどそういうのもいいな笑』

『普段もそういうの着るの?』


【ありさ】「はいっす、私もこんな感じのコーデ好きっすよ」

【ありさ】「地雷系ファッションのも似合うけど、カジュアルなスタイルも悪くないっすよね」

【ありさ】「ちなみに先パイの今日のポイントは?」


『俺はこの前すすめられたのをなるべく再現しただけだぞー笑』

『まあ、久々にジーパン履いたから、それに合わせてデニムのジャケットも着てるけどな~笑』

『外に出たら意外と暑くて、若干後悔してるけど…笑』


【ありさ】「わたしも今日がちょっと肌寒かったら何か羽織ろうとは思ってたっすけど、今日はさすがに熱いっすよねw」

【ありさ】「でもよく似合ってるっすよ!」

【ありさ】「あとは最悪リュックの中に突っ込んどけばいいんじゃないっす?」


『電車に乗ったらそうするつもり』


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こんなに近くにいるのに、わざわざメッセージでやり取りしてることを特に疑問にも思わず、しばらくの間そうしていた。体幹時間では5分くらいだろうか。

そうこうしているうちに、向かい側のホームのスピーカーから、電車がまもなく到着するというアナウンスが流れてきた。


お互いふっとスマホの画面から目を離して、1番線の電光掲示板に目をやる。

予定よりも2本ほど早い電車だ。

掲示板から目を離すと、2本の線路を挟んで、お互いの目が合う。

一瞬だけ見つめ合ったのち、ほぼ同じタイミングで手元の画面へと目を落として、『ちょっと早いけどこれで行く?』「そうすっね、いっちゃいましょうか」と1通ずつメッセージを送り合った。


少し急ぎ足で改札へ続く階段を駆け上がる。

履きなれないジーンズではちょっとだけ動きにくかった。


階段の窓の縁に切り取られた空には、まるで絵画のような白くておいしそうな雲が漂っていた。


もうすぐ電車がやってくる。


今日は暑くなりそうだ。



-終-

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