#8 星屑に咲くヒマワリ





 十二月二十四日、クリスマスイブ。




 「に、似合うっスかね……?」


 待ち合わせ場所に現れた左瀬川遥は、


 ――めちゃくちゃ控えめに言って、女神だった。




 白の長袖ニットに、膝上二十センチでひらひらと舞うガーリーめなスカートの装い。


 髪をかけて覗く耳には雪の結晶を模ったピアスをつけ――



「……ごくっ」


 思わず生唾を呑んで見つめたのは――まばゆいばかりに神々しく主張する、太ももの『絶対領域』。



 薄手のスカートから伸びる、柔らかな脚線。


 そして『むちぃ……♡』と主張する肉感を蠱惑に演出するのは――悩ましい脚線をこれでもかと引き立てる黒のニーハイブーツ。



 ――似合うも何も、反則だ。

 破壊力がありすぎる。



「……(ごくり)」

「せ、先輩ってば見すぎ。おっぱい星人は返上したんスか……?」

 うっすらと朱に染まって、むにゅりと盛り上がった領域を鞄で隠す遥。


 肩に届くくらいに伸ばした髪にアッシュゴールドを入れたのもあいまって、幼い相貌が気恥ずかしさに染まるのとは裏腹に、どことなく大人っぽい雰囲気をまとっている。


 でも瞬間――甘くいたずらな微笑みを浮かべると。


「――じゃ、行こっ! ゆう先輩♪」


 幼気いたいけな表情のまま差し出された手を、俺は握って。

 彼女は優しく俺の手を引き――イルミネーション瞬く冬空の下へと、俺をいざなった。


 



     *


 遥と手を繋ぎ、ターミナルの街を歩く。


 辺りはカップルで埋め尽くされて、文字通り恋人たちの夜。

 時折カレシがこちらを振り向いて、カノジョに耳を引っ張られたりして。


 その目線は――俺の隣を歩く少女へと、向けられていた。



 星をちりばめたような都会の夜にあっても眩しく輝く彼女は、


 俺の隣を、同じ歩調で歩きながら。

 ――どこか違う次元の存在へと、変わり始めてて。



『――あれ、ミス明凛の左瀬川遥じゃない?』

『ほんとだ! え、やばっ、、生はるるめちゃくちゃカワイイ……♡』

『芸能活動には興味ないらしいけど、大手の事務所もまだ諦めてないらしいよ』


 電車の中。キャンパスを歩いていても。

 ――注目を浴びる彼女は、もうあの頃の。


 小講義室の一角。

 人知れず咲いていた月見草じゃない。


 大輪の花咲かす冬の向日葵ヒマワリへと。

 ――自らの力で、生まれ変わったんだ。



『隣歩いてるのカレシかな?』

『……なんか、パっとしないね』

『ちょ、聞こえるって』


 ……翻って俺は。


「? ゆう先輩……?」

 知らず手に力が入っていたみたいで。


「先輩、」

 ――だから、その囁く声を。


「――場所、変えよっか?」

 きゅ、と握った手の温もりの意味を、


 本当は、知っていて。






     *





 ――だから後悔なんて、どこにもない。





 好きだよ、ゆう先輩。



 どんなことがあっても……ずっと一緒だからね。








     *







(続)



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