第50話 やっぱりひよりさんは小さいけど大きい


「ふふふ……っ! 雄介くん、髪の毛ふわふわだね。おっきな犬みたいだ」


 そう言いながら、ひよりさんが僕の頭を優しく撫でる。

 小さな手がそっと髪に触れ、指で絡めて遊ぶ感覚にドギマギする僕であったが、後頭部から伝わる感触も問題だ。


 スカートとスパッツ越しに伝わってくるひよりさんの腿の感触に、どうにも心が乱れてしまう。

 頭を撫でられ、髪を弄られ、そうやって膝枕される僕は色んな形で触覚を刺激されているが……僕を一番動揺させているのは、視覚から伝わってくる情報だ。


(お、大きい……! 近い……っ!!)


 見上げる視線の先にある、

 視界の半分近くを埋めているそれは、文字通り目と鼻の先ともいえる至近距離にあって……色んな意味で、僕を落ち着かせてくれないでいる。


「ふふっ! 今はあたしが雄介くんに見上げられる立場だね~! ちょっといい気分だ!」


 明るく弾んだ声で話しかけてくるひよりさんだけど、今の僕には彼女がどんな顔をしているか全くわからない。

 僕の視線を遮る大きな山のせいで、ひよりさんの顔が見えないからだ。


 意識したくないが、どうしても意識させられてしまう。やっぱりひよりさんはし、二重の意味で距離がとても近い。

 目を閉じてしまえば多少はマシになるかな……と考える僕であったが、ひよりさんは僕のそんな考えを見抜いているように、いたずらっぽい声でこう言ってきた。


「んっふっふ~! 雄介くんの顔がこの辺りにあるってことは……頑張れば、太ももとおっぱいで挟めちゃうかもね。どうする? 幸せサンド、してほしい?」


「しなくていいです! っていうか、慎みを覚えるとか言ってなかった!? 矛盾してない!?」


「それはほら、雄介くんが頑張ってくれたわけだし、あたしもその頑張りに応えたいかな~って……雄介くんがしてほしいことならしてあげたくなっちゃうっていう乙女心ですよ、はい」


 冗談で言っているように見えて、ひよりさんの声には若干の本気さが見え隠れしている。

 ちょっと気を抜いたら今言ったことを本気でしてきそうなスゴ味がそこにあった。


(ダメだ、落ち着かない……! 温かいし柔らかいしいい匂いがするし……自分で考えてて気持ち悪いな、僕……!!)


 幸せなんだけれども自己嫌悪も感じてしまうという不可思議な状況に僕は複雑な表情を浮かべる。

 この顔を彼女に見せずに済むという意味では目の前にある巨大な山の存在に感謝しなければなと僕が思う中、ひよりさんが口を開いた。


「ふふっ……! 雄介くんの気分が良くなったら、お昼ご飯を食べに行こうか? その後はイルカショーを見て、それが終わったら優希と玲香に渡すお土産を見に行って、その後は……帰る時間になっちゃうかな」


「ん……そうかもね。でも、そこで解散するわけじゃないしさ。ひよりさんさえ良ければ、晩御飯もどこかで食べていこうよ」


「ホント!? じゃあ、ラーメン食べて帰ろうよ! 学校の近くにある、あのお店のさ!」


「いいね。あそこのラーメン、美味しいもんね。今日の締めはあそこで決まりだ」


「えへへっ! や~りぃ! ってことは、今日はまだまだ二人で過ごせるね!」


「そうだね。久々の二人きりなんだから、できる限り長く一緒にいたいもんね」


 一瞬、帰る時間のことを考えて寂しそうにしたひよりさんだったが、僕の返答を聞いて再び声を弾ませた。

 これまでの時間を埋めるわけではないが、今日は久々に二人で長く過ごしたいと僕が言えば、ひよりさんは僕の頭を撫でる手に嬉しさの感情を込めながら口を開く。


「えへへ……! 今、人生で一番おっぱいが大きいことに感謝してるかも。今のあたし、ものすご~くだらしない顔してるからさ。雄介くんに見られないで良かった~!」


「うわ、なんかそう言われると気になっちゃうな。ひよりさんの顔、見たくなる」


「だ~めっ! その代わりに下からあたしのおっぱいを好きなだけ見ていいからさ! 多分、雄介くんだけしか見たことない景色だよ! やったね!」


 そう言いながら自分の胸を下から持ち上げたひよりさんが、たぷたぷとそれを揺らしてみせる。

 正直な話、僕にはその刺激的な光景を眼福と言って直視するだけの度胸はないわけで……腕で目を隠しながら顔を赤くした僕は、楽し気なひよりさんへとこう言うので精一杯だった。


「あの、ひよりさん? サービスしてもらえるのはありがたいけど、慎みを持っていただけると助かります……!」


「あははっ! 雄介くんはかわいいなぁ! でもまあ、うん、そうだね……雄介くんがそうしてほしいって言うなら、そうするよ!」


 お願いを聞いてくれたひよりさんは、笑いながら優しく僕の頭を撫でてきた。

 その手から伝わってくる温かい感情だとか、幸せそうな彼女の声を聞いている僕もまた、ひよりさんには見えない位置でだらしない笑みを浮かべる。


「……いつか、このだらしない顔を見せ合えるようになったら、お互いどんな反応をするのかな?」


「ん~……あたしはもっとだらしない顔になるかも。雄介くんの幸せそうな顔見たら、もっと幸せになっちゃうからさ」


 それは僕も同じだと、小さな声でひよりさんへと返す。

 その言葉を聞いたであろう彼女は嬉しそうに僕のおでこを叩きながら、膝枕を続けてくれるのであった。


――――――――――

最近、感想返信ができずに申し訳ありません。

本当に忙しくてなかなか余裕ができず、皆さんに返信できないのですが、ちゃんと読ませていただいてます。


色々と忙しくなっている理由を説明できる日が来ればいいなと思いつつ、もう少しお待ちいただけると幸いです。


ご意見をいただいている部分に関しては調整していくつもりですが、具体的にどうするかというのは読んでくださっている方々の楽しみを奪うネタバレになってしまうと思うので、明言は控えさせていただきます。


どうなるのか?というこれからの展開を楽しみにしながら読み進めていただけると幸いです。

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