第42話 クラスのみんなと遊びに来た

「あっ! 玲香! 尾上くん! こっちこっち!」


「ご~めん! 遅くなっちゃった!」


「気にしないでいいよ。二人とも、お仕事お疲れさま!」


「迎えに来てくれてありがとう。助かったよ」


 GW最終日、『やっぱり寿司!』でのアルバイトを終えた僕と鉢村さんは、先に遊びに行っているクラスのみんなと合流すべく複合レジャー施設『れじゃすぽっ!』へとやって来ていた。

 更衣室で着替えを終えて出てきた僕たちは、そこで待っていてくれたひよりさんとその友達である熊川さんと合流しつつ、話をしていく。


「昼のピークが過ぎてからすぐに上がったんだけどさ、思ったより遅くなっちゃったよ」


「そんなに慌てなくても大丈夫だって! 私たちもここに来たのは昼過ぎだし、実質一時間とちょっとくらいしか遊んでないからさ!」


「雄介くんたちほどじゃないけど、遅れて合流した人たちもいるしね!」


 そうやって僕たちをフォローしてくれる二人に感謝しつつ、僕は運動しやすい格好になっているひよりさんの姿をちらりと見やる。

 シンプルな白いシャツと、側面に白いラインが入ったピンク色のハーフパンツ。運動着とまではいかないが、動きやすそうな服装であるひよりさんの格好を見ていた僕へと、視線に気付いた彼女がニヤリと笑いながら言う。


「どうしたの、雄介くん? もしかして、あたしに見とれちゃった?」


「ん~……そうかも。普段とは違った雰囲気だなって思ったら、ついね」


 制服姿とも私服とも違う今のひよりさんの格好は、珍しいと言えば珍しい。

 今まで見たことのなかった彼女の姿に見とれていたことを正直に肯定すれば、ひよりさんは嬉しそうに笑ってくれた。


「へ~? ふ~ん? ほ~? 嬉しいことを言ってくれますな~!」


「……改めて思うけど、あんたたちって本当にすごいよね。合流して一分でイチャつけるとか、バカップルの才能あるわ」


 そんな僕たちへと呆れたような、面白がっているような雰囲気で鉢村さんがツッコミを入れる。

 確かにちょっとおかしいよなと苦笑しながら僕がごもっともなそのツッコミを受け入れる中、楽し気に笑っている熊川さんが口を開く。


「わかるよ尾上くん! 普段よりも薄着のひより! その中で存在を主張するひよパイ! つい目で追っちゃうよね!」


「い、いや、僕はそういうつもりで言ったんじゃ……」


「だがしかし! 私たちは今の状態でもすごいひよりのもっとすごい姿を目撃してしまったのだ~!」


「ちょっと、優希!?」


 何故だか得意気に僕へとそう言う熊川さんと、そんな彼女の言葉に焦るひよりさん。

 なんだなんだと僕が思う中、熊川さんは僕たちが来る前の出来事を語り始める。


「さっき女子のみんなでロデオマシーンに乗って遊んだんだけど、ひよりの時はすごかったんだって! グオングオン暴れる牛の上にミニホルスタインがいたっていうか、暴れ牛以上の暴れ乳がいたっていうかさ~!」


「え、えっと……そ、そうなんだ……」


「本当にすごい暴れっぷりだったよ。しかもひよりはケツがデカいせいか、安定性抜群で意外と長く持った……ぐえぇ!?」


「ゆ~う~き~? それ以上言ったら、テスト勉強見てあげないからね?」


「ひえええっ!? そ、それだけはご勘弁を~!」


「まったく……! 折角あたしが慎みを覚えようとしてるのに、こういうことして……!」


 緩めながらもお腹のいい位置にパンチを入れたひよりさんが、熊川さんを笑顔で脅す。

 そんな彼女の言葉に怯え、平身低頭で謝罪し始めた熊川さんへと、呆れ気味な鉢村さんのツッコミが入った。


「優希もアホだね~。こうなるってのは目に見えてるじゃん」


「ぐふっ……! お、尾上くんにあの光景を少しでも想像してもらいたかっただけなんです……! あ、安心して! 女子だけでやったから、他の男子たちはひよりの暴れっぷりは見てないよ!」


「その気持ちはありがたいけど、気を遣う部分が間違ってないかな……?」


「そんなことより、さっさと他のみんなと合流しよう! 今、ちょうどいいところだからさ!」


 僕も鉢村さんに続いてツッコミを入れる中、恥ずかしさに顔を赤く染めたひよりさんが強引に話題を変える。

 そのまま、僕の背中を押してどこかへと連れて行こうとする彼女の成すがままにされながら、ちょうどいいってどういうことだ? と考えていた僕は、クラスのみんなが遊んでいる姿を見て、その意味を理解した。


「よっしゃ! また俺の勝ち~!」


「だ~っ! 少しは手加減しろよ! お前、この中で唯一のバスケ部だろ!?」


「真剣勝負なんだから、手加減なんてするわけないだろ? ほら、次は誰が俺と勝負するんだ!?」


 バスケットのハーフコートの中で、楽しそうに騒ぐ男子たちとそれを見守る女子たちの姿を見つけた僕は、彼らがバスケの1on1をしているとすぐに気付いた。

 そこでクラスの男子たちを退けているのは、うちのクラスのバスケ部である遊佐 楽人ゆさ がくとくんだ。

 1on1で敵なしの彼が次の相手を募集する中、僕たちと一緒にみんなと合流した熊川さんが手を挙げる。


「はいは~い! 真打ち登場だよ~!」


「おっ! 鉢村と尾上じゃん! バイト、お疲れ~!」


「そういや尾上って中学時代はバスケ部だったんだよな? じゃあ、期待できるかも!」


「ほほう? 面白いじゃねえか! よっしゃ! 尾上、かかってこいや!」


 少しばかりおどけた様子で挑戦状を叩き付けてくる遊佐くんの態度に、僕は苦笑を浮かべる。

 だけど、バスケットの勝負を持ちかけられて逃げるつもりはない。軽く準備体操をしてからコートの中に入った僕は、遊佐くんと向かい合いながら言葉を交わす。


「おお、やっぱデカいな……! だが、負けられねえ! 現役バスケ部の意地ってもんがあるからな!」


「あはは……! お手柔らかにお願いします」


 ルールはサドンデス方式。どちらか片方がシュートを決められなかったら、その時点で負けだ。

 じゃんけんの結果、遊佐くんの先攻が決まり……彼にボールを渡したことを合図に、僕たちの勝負が幕を開けた。


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