浮かれポンチ怪獣ひよりん
「あはは、実はあたしも今、思い付いたんだよね。存在は知ってたけど、実際に使うこともプレゼントすることもなかったからさ」
入浴剤を一歩華やかにしたような物であるバスボム。割と人気な贈り物ではあるのだが、やっぱりなかなか馴染みが薄いというか、あんまり使うことがないから忘れやすい。
だけど、今、あたしたちが探しているプレゼントの条件に、完璧にフィットする物でもあるはずだ。
「見た目もかわいいし、ギフト用に箱詰めされてるのもあるし、値段もお手頃。体の疲れもストレスも癒せるし、完璧だよ! 流石ひよりさん!」
「えへへ~! もっと褒めてくれてもいいんだよ~?」
えっへん、と胸を張って雄介くんにドヤれば、彼は拍手と共になおも称賛の言葉をかけ続けてくれた。
ちょっと恥ずかしくなったあたしははにかみながら、雄介くんへと言う。
「まあ、冗談はここまでにしておいて……真理恵さんにどのバスボムをプレゼントするか、一緒に考えようよ!」
「そうだね。意外と種類があるし、色々見ておかないとね」
一言にバスボム、と言ってもかなりの種類がある。
入浴剤にもヒノキの香りとか柑橘系の香りとかがあるが、バスボムの場合はそこに見た目の部分も関わってくるからかさらにバリエーションが多いのだ。
それに、入浴剤には当たりハズレもあるし、個々人の好みってものもある。
真理恵さんの好みに関してはあたしはわからないから、そこは雄介くんに頼るしかない。
「うわ、普通に丸いやつもカラフルでかわいいのに、ドーナツとかカップケーキ型のバスボムもあるんだ! こっちも面白そう!」
「こっちもかわいいね。ちなみにだけどひよりさん? これは食べられないから、齧っちゃダメだよ?」
「あ~! そういうこと言うんだ!? いくらあたしが食い意地張ってるからって、流石にそんなことはしません~!」
「あはは、ごめんごめん! ちょっとからかいたくなっちゃってさ」
こんなふうにからかってもらえるってことは、あたしに対して遠慮がなくなってきたって考えていいんだろうか?
別に機嫌を損ねるものでもなかったし、むしろちょっと楽しかったあたしが少しだけ嬉しさをにじませた笑みを浮かべる中、今度は真面目にバスボムを眺めていた雄介くんが言う。
「ん……? これ、中に花びらが入ってるのか。こういうのもあるんだ……」
「おおっ! ちょっとしたセレブ気分を味わえて、いいんじゃない!?」
「う~ん……そこはいいとは思うんだけど、やっぱり掃除が大変そうだなって。僕たち兄弟の誰かがやるつもりだけど、そこを母さんが気にしたら申し訳ないなって」
「あ~、そっか。そういう部分もあるのんだね。やっぱり毎日家事してる雄介くんの視点じゃないとわからないこととかも多いんだなぁ……」
「そう大したことじゃないよ。そもそも、ひよりさんがいなきゃバスボムって選択肢に思い至らなかった可能性の方が高いしさ。僕には女の子の感性とか知識がないから、本当に助かったよ」
「えへへっ! じゃあ、お互いに助け合えてるってことだ! いい感じだね、あたしたち!」
雄介くんが持っている知識と、あたしの知識。それを上手く組み合わせたおかげで、ここまでたくさんのいいプレゼント候補が見つけられた。
そのことを喜びながら、あたしは雄介くんへとこんな提案をする。
「あのさ! 雄介くんがいいと思ったやつ、とりあえず選んでみてよ! それ、あたしが買って試してみるからさ!」
「えっ? いいの?」
「うん! やっぱり実際に使ってみないとどんな感じなのかわからないし、雄介くんが試すわけにもいかないでしょ?」
「……そうだね。ひよりさんが協力してくれると助かるよ。じゃあ、お金は僕が出すから――」
「あ~、それはいいよ! あたしが使うんだし、あたしが出すって!」
「いや、それは悪いよ! 手助けしてもらうわけだし、僕が出すのが当たり前だよ!」
「気にしないでって! 雄介くんにも真理恵さんにもお世話になってるしさ! あたしも母の日に感謝を伝えたいし、それに――」
そこまで言ったところで、あたしは視線を泳がせながら口を閉ざす。
自分が言おうとしたことが、あんまりにも恥ずかし過ぎることに気付いたからだ。
(もしかしたら、お義母さんって呼ぶ日がくるかも……だなんて、流石にマズいって! ドン引きされちゃうって!)
自分の浮かれポンチ具合というか、調子に乗りまくってるところというか……そういう部分に気付いたあたしは、心の中で冷や汗を流す。
あたしと雄介くんはまだ友達。それなのに、圧倒的未来を考えてるようなことを言ったら、驚かせるを通り越して引かれるに決まっているじゃないか。
「ひよりさん、どうかしたの?」
「あっ、う、ううん! なんでもない! とにかく、あたしも真理恵さんに感謝の気持ちを伝えたいからさ! ここはあたしに出させてって!」
自分が考えていた重くて恥ずかしいことをごまかすようにそう言いつつ、ごり押しで雄介くんに提案を飲ませる。
その後、選んでもらったバスボムを購入し、夜に使った時の湯船の様子や感想を連絡することを約束して、あたしたちのプレゼント探しデートは終わりを迎えるのであった。
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