彼と一緒に、悩みたい
「お布団にマッサージ機に写真集、ここまで色々見てきたけど……雄介くん的にはどう? これだ! っていうプレゼントは見つかった?」
「う~ん……どれもいい感じなんだけど、あと一歩が足りないかなって感じなんだよね……」
寝具店から家電量販店、そして本屋さんと他にも幾つかの店を見て回ったあたしたちは、改めて真理恵さんに贈るプレゼントを絞るべく話し合いをしていた。
色々と候補はあって、そのどれもがいい感じといえばいい感じではあるのだが……微妙に物足りないというのが雄介くんの考えのようだ。
「なんていうか、華がない気がするんだよね。ここまで見てきたのは実用的なんだけど、その分地味っていうかさ……」
「あ~、なるほど……! 言われてみれば確かにそうかもね……」
その物足りなさについて分析した雄介くんが、地味というワードを口にする。
確かにここまで見てきた物たちは実用的ではあるが、母の日のプレゼントとして華がないという感じでもあった。
「もっとこう、貰った時にテンションが上がるようなプレゼントがいいってことだよね? 喜びの方向性が違うっていうかさ」
「あ~、うん。感動的な喜びより、はしゃぐ感じの喜びを見たいといえばそうかも……」
あたしでいえば、ケーキバイキングに連れて行ってもらった時がそんな感じなんだろう。
このヘアゴムをプレゼントしてもらった時ももちろん嬉しかったが、その嬉しさの中身としては感動という感情が大きかった。
対して、一緒にケーキバイキングに行った時は楽しさだとか、喜びの感情が強かったことを覚えている。
重ね重ねではあるが、真理恵さんは雄介くんが何を贈っても喜んでくれるだろう。
その上で、母親が飛び跳ねて喜ぶような華のあるプレゼントを贈りたいと、そう雄介くんは言っている。
「でも、難しいよなぁ……疲れを取るってコンセプトが、まず実用的な物を選択させてくるからさ」
「確かに。派手派手な物だと気持ちが落ち着かないもんね」
これも雄介くんが言うとおり、癒しと派手さっていうのは真逆の位置にあるものなんじゃないかとあたしも思う。
例えばだけど、壁も天井も金ぴかな部屋の中でゆっくり休んでくださいって言われても、絶対に落ち着かないはずだ。
そういう時は田舎の一軒家でのんびり過ごした方がゆっくりできるはずだし、気持ちも落ち着く。
そういう意味ではプレゼントのセレクトには苦戦するよなと、そう考えるあたしの横で雄介くんはうんうんと唸りながら一生懸命に頭を悩ませていた。
「何かないかな……? 程よく派手で、疲れを取れそうな物……」
自分たちを育てるために頑張ってくれている母親に、日頃の感謝を伝えたい。
あたしの時もそうだったけど、雄介くんは誰かのために本当に一生懸命になれる人なんだなって、悩む姿を見ていると心の底からそう思えた。
だから、あたしも雄介くんのために一生懸命になりたい。少しでもいいから、あたしのために頑張ってくれてる彼の力になりたいって考えながら、何かいい候補はないかと周囲を見回したあたしの目に、思い出深いお店が映る。
(あっ……! ここ、確か雄介くんがヘアゴムを買ってくれた……!)
初めての休日デートの時、雄介くんがヘアゴムを買ってくれた雑貨店……それを目にして、あの日からまだそんなに時間が経っていないというのに懐かしさを感じてしまったあたしに、突然電流が走った。
そうだ。雑貨店なら、あれがあるかも……! とある気付きに至ったあたしは、興奮気味に雄介くんへと声をかける。
「雄介くん! ちょっとこっち来て!」
「えっ? ど、どうしたの、ひよりさん?」
ぐいっと彼の腕をひっぱり、強引に雑貨店へと連れ込む。
ヘアアクセサリーのコーナーに寄って思い出に浸りたい気持ちをぐっと我慢しながら、あたしはお目当ての品を探していく。
(化粧品売り場……には無いよね? でも多分、近くにある気がするんだけどな……)
おおよそではあるが、お目当ての品が置いてある場所は想像がつく。
困惑する雄介くんの手を引きながらお店の中を探し続けたあたしは、ついに探していた物を発見し、ぱあっと笑みを浮かべた。
「あった! これこれ! これだよ、雄介くん!」
「ん? これって……?」
片手で簡単に握れてしまう、野球ボールくらいの大きさの球。
色とりどりのそれにはハートマークなんかも描かれていたりして、とてもかわいらしい。
華があって癒しを与えてくれる、お手頃価格の商品。
その条件全てを満たすプレゼント候補を見つけ出したあたしへと、驚きながらも感心した様子で雄介くんが言う。
「バスボム……入浴剤か! そうだ、疲れを癒すといえばお風呂なのに、今の今まで完全に失念してたよ……‼」
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