脳が、破壊される……!(仁秀視点)

(何を見せられてるんだ、俺は……⁉ もう帰りたくなってきた……‼)


 ひよりと尾上のデートを尾行し始めて、およそ一時間後……俺は精神的に疲れ切っていた。

 もう帰りたい、ログアウトしてしまいたい。そんな考えだけが頭の中を支配している。


 何が悲しくて……本当に何が悲しくて、寝取られた彼女と寝取り男のデートを見なくちゃならないんだ⁉


 確かにあいつらの今の関係性とか、どんなことをするのかをこの目で確認しようと考えたのは俺だし、その中で弱みにつながるようなものが見つかればいいとも思ったさ。でも、こんなのはおかしいだろ⁉


 一番最初に見に行った寝具店では二人で同じベッドの上に寝転んでやがった。

 あんな至近距離で見つめ合って……! どこでも人目を気にせずにベタベタ馴れ合うひよりの姿は男に寝取られて下品になった女そのものだったし、同じベッドに寝ている二人の姿を見ていると、ヤった時もあんなふうにしてたのかなと考えてしまって、グサッと心にナイフが突き刺さる。


 その次の家電量販店ではマッサージチェアを見ていたかと思えば、二人で人目のつかない場所に移動して……! ロデオマシーンとかマッサージチェアの振動で激しく揺れるひよりの胸を妄想していた俺は、あいつらを追うのが少し遅れてしまった。

 慌ててあいつらが向かった棚の近くへと向かった俺だったが、その耳にすごくエロいひよりの声が聞こえてきて、今まで聞いたことのないあいつの声を聞いてビビった俺は、尾上が何をしたかを想像して頭の中を真っ白にしてしまう。


 あいつは絶対、ひよりにエロいことをしたんだ。人目のない場所に連れ込んだのも、それが目的だったんだ。

 流石にここでだなんてことはなかったんだろうけど、絶対に胸くらいは揉んだに違いない。

 ひよりの声を聞いた後は頭が真っ白になっていてあいつらが何をしていたかはわからなかったけど、その後で姿を見せたひよりが滅茶苦茶恥ずかしそうにしてたのを俺は見逃さなかった。


 尾上の奴、ひよりにエロいことをしたんだ。あの反応を見れば、誰だってそう思う。

 きっと周りに見えないところでひよりの胸を揉んだに違いない。ひよりのあの、デカい胸を、こんな場所で……!


 悔しい。浮気がバレてさえいなければ、尾上さえいなければ、ひよりの胸を揉んでいたのは俺だったはずなのに!

 何年もずっと気になっていた胸を揉むってことを、付き合い始めてからずっと期待していたことを、たかだか一か月程度の付き合いの尾上がやってしまったんだ。


 っていうか、ひよりも簡単にそんなこと許すなよ! 寝取られた女が下品になるのは定番だけど、こんな大勢の人がいる店の中でそんなプレイをするだなんて、流石にヤバ過ぎだろ⁉

 何より……そんなに簡単に胸を揉ませるくらいなら、俺にだって揉ませてくれれば良かったじゃないか!

 そうしたら、まだ俺たちは彼氏彼女の関係でいられたのに‼ 尾上に寝取られることもなかったのに‼


(たった一か月程度だぞ? それだけで、俺たちの関係を余裕で飛び越えやがったのかよ……⁉ クソ尾上! ゴミ尾上! ズル野郎め‼)


 そうした後で本屋に行き、体を寄せ合って何かを話している二人を遠目に観察しながら毒を吐く俺であったが、その胸中は完全に弱り切っていた。

 俺とひよりが幼馴染として歩んできた十数年間、恋人として過ごしてきた一年間を、尾上が簡単に越えてしまったことがわかったからだ。


 俺だってひよりと同じ布団で寝たことくらいはある。だけど、それは幼稚園に通う前の子供の頃の話だ。

 高校生どころか小学生になって、あんなふうにイチャつくような感じで一緒に寝たことなんて一度もない。


 大きくなったひよりの胸を揉ませてもらったことも一度もないし、なんだったらそれが決別のきっかけにもなってしまった。

 そんな行為を、尾上は簡単にできるようになってるんだ。ズルい。悔しい。俺だってそうしたい!


 それに、あんなふうに体を寄せ合って何かを見ることも、中学生になった頃からしなくなった気がする。


 子供の頃ならまだしも、思春期になってあんなバカップルみたいな真似、恥ずかしくてできるもんか。

 尾上があれをできるのは、あいつが人目を気にしない寝取り男だからだ。

 あんなことすれば、周囲の連中から白い目で見られるに決まってるじゃないか。


 ……でも、やっぱり……悔しいものは悔しい! 俺のものだったひよりが、あんなふうに変えられていくのを見ていると、心がぐちゃぐちゃになる!

 頭が痛い。耳鳴りがする。ここからも尾上が自分の女になったひよりを連れて好き勝手し続けるだなんて、絶対に耐えられない!


(もういい! もう今日は帰る! よく考えたら、弱みを握るなら尾上だけを尾行すればそれでいいじゃないか‼)


 このままあいつらのイチャつきを見せつけられた上で、ラブホに行ったりどちらかの家に連れ込んだりする場面を見てしまったら、気が狂ってしまう。

 だから、もういい。今日はこの辺にしておいてやろうではないか。


(見てろよ、尾上! 絶対、絶対……お前からひよりを奪い返してやるからな‼)


 絶対にリベンジしてやると、固く誓いながら心の中で尾上に宣戦布告をしながら、俺は撤退していく。

 しかし、頭の中には今日、見せつけられたあいつとひよりのイチャつきが勝手に再生されていて……俺ができなかったことを簡単にやってのける尾上への羨ましさと悔しさに半泣きになりながら、ぐわんぐわんと視界を揺らしつつ、俺は一目散へと帰宅していくのであった。


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