寝具店で、ごろごろ
疲れを取るといえば、やっぱり睡眠! というわけでまずあたしたちが訪れたのは、ショッピングモール内にある寝具店だ。
毎日の睡眠をより良いものにできれば、真理恵さんも喜ぶはず……という考えの下、あたしたちは色々な商品を見て回っていく。
「枕にタオルケット、毛布に掛け布団か……こうして見ると色々な物が売ってるんだね」
「そうだね。普段来ない場所だし、なんかちょっと新鮮かも」
こういう寝具店って、あたしたち高校生は滅多に訪れない。
布団とかは頻繁に買い替える物じゃあないし、仮にそうなったとしても大体がお母さんたちが買ってきてくれるからだ。
なので、ちょっとだけ慣れない気持ちはありながらも、それはそれとして真理恵さんに贈るプレゼントについて、あたしたちは二人で話し合っていく。
「枕が変わると眠れないって人も結構いるみたいだし、そこは避けておいた方がいいよね。毛布とか掛け布団は季節によっては使わないこともあるだろうし、ここも止めておく方が無難かな?」
「そうなると……やっぱり敷き布団がいいんじゃないかな?」
寝具は意外とデリケートだから、選択に悩んだりするが……敷き布団ならばそこまで心配しなくていいかもしれない。
ただ、予算的に厳しいかもしれないなとは思いながらも、あたしたちは見るだけ見てみようということで布団コーナーを見てみることにした。
「う~ん……やっぱり値段が高いな~。流石にこれは予算オーバーかも」
「あっ! でも見てよ! こっちにおすすめのお布団が置いてあるよ! 実際に寝て、確認してもOKだって!」
そう言いつつ、あたしは自分が見つけたお試しコーナーを指差す。
簡素なパイプベッドの上に置かれた比較的安めの布団は、手で押して確認して見た感じ、かなり柔らかくて寝心地も良さそうだ。
折角だし、といった感じで靴を脱いだ雄介くんが、実際にその上に寝転がって寝心地を確認してみる。
「おお、結構いいかも……! これならぐっすり眠れそうだ……!」
「ホント? じゃあ、あたしも試してみよ~っと!」
「うえっ!? ちょっ、ひよりさん!?」
簡易ベッドの上に寝転がり、天井を見上げながら雄介くんが呟く。
その呟きを聞いたあたしもまた靴を脱ぐと、彼の隣にころんと寝転んでみせた。
「お~っ! 確かにふかふかでいい寝心地してるね! 流石に二人で寝るには狭いけどさ!」
「わ、わかってるならそういうこと止めなって! ここ、家じゃないんだからさ……!!」
「ん~? その口振りだと、家でならこういうことをしてもいいって意味に聞こえるんだけどな~?」
ちょっとだけ寝返りを打って雄介くんの方に体を向ければ、少しあたしから距離を取りつつも顔をこちらに向ける彼と目が合った。
恥ずかしそうにしている彼をからかうようにそう言ってニヤニヤと笑ってみせれば、雄介くんは顔を赤くしながらこう答えてくる。
「そういう意味じゃなくって……いやまあ、確かに一回似たようなことはしたけどさぁ……!」
「ふふふ……っ! あの時より、今の方が近いね。明るいから雄介くんの顔もよく見えるよ」
暗闇の中、少し落ち着かない気持ちで彼に迫ったあの日の夜のことを思い返しながら、あたしが言う。
あの時もあたしと雄介くんの距離は普段よりずっと近くって、いつもはある身長差もゼロになっていて、同じ高さで物を見れていたっけとか思いながら、微笑みを浮かべる。
電気の消えた部屋よりも明るいお店の中で、一つだけの布団の上に二人で寝転がっているあたしたちの距離は、あの日よりずっと近くなっていた。
近付いているのはきっと、物理的な距離だけじゃなくて心の距離もそうなんだろうな……と思いながら満足気に微笑むあたしに向け、咳払いをした雄介くんが言う。
「ん、んっ……! そろそろ止めようか? 店員さんもこっちを見てるしさ」
そう言われたあたしが周囲を確認してみれば、確かに寝具店の店員さんがこっちをちらちらと見ていることがわかった。
ここで声をかけられたら、あたしはともかく雄介くんが恥ずかしさで死にそうになっちゃうだろうな~と考え、彼に言われるがままに体を起こす。
「あはっ! ちょっとおふざけが過ぎちゃったね。でも、いい寝心地のお布団だったと思うな!」
「そうだね。だけど、やっぱり値段が値段だし……候補の一つには入れておくとして、他の物も見に行くよ」
「りょ~か~い! じゃあ、次はどこに行こうか?」
敷き布団をプレゼント候補に入れつつ、他の候補も探しに行くという形で話は落ち着いた。
靴を履き、店員さんに頭を下げてから寝具店を出たところで、少しだけ恥ずかしさを感じたあたしが雄介くんへと言う。
「ふふふっ! あたしたち、ただの友達だけどさ……かなり大胆なこと、しちゃったね!」
「あれはもう大胆というより、バカップルの領域だって……嫌じゃなかったけどさ」
「むっふっふ~っ! 雄介くんのそういう正直なとこ、好きだよ!」
フォローのつもりなのか、あるいは隠し事ができない性質なのか、はたまたその両方かはわからないが、ボソッと本音を呟いた雄介くんへとあたしは笑顔でそう述べる。
こういうところがかわいいし、大好きなんだよな~と思いながら、あたしたちはプレゼント候補を探すために次のお店へと歩いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます