マッサージ器で、ぶるぶる
「ふ~む、やっぱりマッサージチェアは高いか~……これは絶対に無理だなぁ……」
続いてあたしたちがやって来たのは、上階にある家電量販店だ。
疲れを取る=マッサージという考えの下、そのための器具を探しに来たのだが、本格的なものはやはり値段も高い。
代表的なマッサージチェアなんかは予算を普通にオーバーしているし、流石にこれは無理だろう。
というわけで、もう少しお手軽な品を探している雄介くんは、ちょっと趣が違うものを見つけたようだ。
「脂肪燃焼用ロデオマシーン……これはマッサージ器具じゃあないよなぁ……?」
「面白いものではあるけどね! こっちも十分高いし、疲れを取るんじゃなくて疲れるものだけどさ!」
一時期話題になったが、最近はめっきり目にすることも少なくなったダイエット器具のロデオマシーン。
お値段はマッサージチェアよりかはずっと安いが、それでも十分高いことに変わりはない。
それに、これは真理恵さんへのプレゼントにはそぐわないだろうなと思いながら、にししと笑ったあたしが雄介くんへと言う。
「にししっ! 雄介くん、ちょっと期待したでしょ? あたしがお試しでこれに乗ってくれないかな~? ってさ!」
「えっ!? い、いや、そんなことないよ!」
「本当に~? 色々暴れたり動いたりする、男の子の心を刺激する光景なのに~?」
ニタニタと笑いながら上目遣いにあたしが雄介くんへとそう問いかければ、ほんのりと顔を赤くした彼が慌てて目を逸らした。
多分、きっと、絶対……その場面を想像したからなのだろう。
ロデオマシーンに跨ったあたしが、機械の動きに合わせて前後したり、上下運動をする。
マシンの動きが激しくなればなるほど、その動きも比例して大きくなって……胸やらなんやらが暴れまわるわけだ。
息遣いを荒くしながら、大きな胸を揺らしながら、何かに跨っているあたしが激しい運動を繰り返す。
ちょっと想像しただけで色々と夢が広がりまくるその光景を思い浮かべてしまったであろう雄介くんは、ぶんぶんと首を振ってからあたしへと言う。
「さっきも言ったけど、お店でそういう恥ずかしいことはしちゃダメだって。お店の人とか、他のお客さんの目もあるでしょ?」
「ふ~ん? 雄介くんはあたしの恥ずかしい姿を他の人たちに見せたくないんだ?」
「……当然でしょ、そんなの」
つくづく、あたしってば性格の悪い女というか、欲しがり屋さんだと思う。
雄介くんの口からこの一言が聞きたくって、わざと彼をこんなふうに弄ってるんだから。
こういう独占欲というか、特別な感情を感じたくての言動に、雄介くんはあたしが欲しがっている反応をこれ以上ない形で見せてくれる。
嬉し過ぎてニヤケてしまうあたしが頬を押さえる中、雄介くんは恥ずかしさをごまかすような口調で言ってきた。
「あっちの方に小型のマッサージ器があるみたいだし、そっちを見てみようよ。ここのは全体的に値段が高過ぎる」
「そうだね。プレゼントにするには、高額過ぎるもんね」
雄介くんが指差したのは、マッサージチェアなどが並べられている売り場から少し離れた位置にある棚だった。
やや周囲から見にくい場所にあるそこには、手で持つタイプのマッサージ器具が売られているようだ。
棚に近付いてみれば、思ったよりもたくさんの種類があるマッサージ器が目に映った。
一般的な棒状の持ち手とその先端に振動する部分が付いているマッサージ器の他にも、ピストルのような形をしている『マッサージガン』とでも言うべき種類や孫の手のような形をしていて背中や太腿なんかの手が届きにくい部位にも当てやすいタイプなど、同じハンディマッサージャーでも色んな形状があることを知ったあたしは、何度も頷きながらお試し用として並べられているそれを見ていく。
「これ、結構いいんじゃない!? お値段もそれなりだし、使いやすそうだしさ!」
「うん、いいかも。あとはどのタイプにするかだけど――」
「そこはあたしに任せてよ! 御覧の通り、肩が凝りやすい体型だしさ! 実際に使ってみて、感想を伝えてあげるよ!」
「あ~、えっと、うん……あ、ありがとう……!」
変な意味ではなく、本当に胸が大きいせいで肩が凝るあたしとしては、この役目はうってつけだと思う。
雄介くんもあたしがからかいではなく真面目に言っていることを悟って、顔を赤くしながらも真面目に感謝を述べてくれた。
ここからは真面目にやろう……と考えつつ、一番最初に目についたマッサージ器を手に取る。
首を傾け、肩の凝っているところに振動する部分を押し当て、スイッチをONにしたあたしだったが……そこで予想していなかったことが起きた。
振動の強弱の設定が、【最強】の状態になっていたのだ。
多分、前に試した人がそのままにしてしまったんだろうが、あたしとしては普通くらいの振動からスタートすると思っていたわけで、いきなり最強の振動が襲ってきたことに驚いてしまった。
でもまあ、その強い振動が肩の凝っている部分にダイレクトに響いたわけで、一番固くなっている部分を解す強力な震えはそれはそれは気持ち良く、予想だにしていなかった気持ち良さに襲われたあたしは思わず口を開いて――
「んんっ♥ んあ……っ♥」
――という、とても甘い喘ぎ声を漏らしてしまった。
自分で言うのもなんだが、声だけじゃなくて表情も結構色っぽかったと思う。
とろんと蕩けた顔で、目と口を半開きにしながら喘いだあたしは、そんな自分のことを驚いた表情で見つめている雄介くんと目を合わせて、ハッとする。
「あっ、いや、その……い、今のは、違くって……!」
おっぱいとかお尻とかで雄介くんをからかうことも多いあたしだけど、今のは滅茶苦茶恥ずかしい。
さっきとは違う意味で顔を赤くするあたしへと、同じく変な声を聞いてしまったことへの羞恥で顔を赤くした雄介くんが言う。
「あ~、えっと……ほ、他の候補を見に行こうか? 僕にも一つ、案があるんだよ!」
「……うん」
ここまで雄介くんをからかい続けたことへの罰か、あるいはさっきの意地の悪い質問へのおしおきか……神様はあたしのやったことをよく見ていたみたいだ。
これからはもう少しだけそういうのを自重しようと思いながら……あたしは耳まで真っ赤になった顔を押さえ、雄介くんに連れられて次のお店へと移動するのであった。
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