ひよりさんと休日デート!そして――!

第32話 翌朝、まるで夫婦みたいな

「ん、んっ……!」


 少しずつ微睡から意識を覚醒させながら、僕はゆっくりと目を開く。

 昨晩はガタガタと震えていた窓は微動だにしていなくて、雨も風も止んでいることがわかった。


「んぁ、ふぁぁ……ん~……?」


 そんな僕の隣で、眠そうなかわいい声が響く。

 ややあって、むくりと上体を起こしたひよりさんを笑顔で見つめながら、僕は彼女に挨拶をした。


「おはよう、ひよりさん」


「ん? んにゅう……おはよ、雄介くん……」


 まだ少し眠そうなひよりさんが目を擦る。

 そうしながらはたと自分の右手を見つめた彼女は、まだ僕と手を繋ぎっぱなしであることに気付いたようだ。


「ふっ、ふふふ……っ! 結局、一晩中手を繋いだままだったんだね」


「そうみたいだね。ちょっと恥ずかしいかな」


 昨日のやり取りを思い返しながら、お互いに照れ笑いしながら、そう話し合った僕らが手を放す。

 少し惜しくはあったけど、いつまでもこうしているわけにはいかないし……きっとどちらかが勇気を出せば、またこうして繋がれるはずだと思う僕へと、ひよりさんが言う。


「う~……あたし的には寝起きの姿を見られる方が恥ずかしいかも。髪もぼさぼさだし、ブサイクだしさ」


「そんなことないよ。ひよりさんはいつだってかわいいって」


「えへへ~……! 雄介くんも言うようになりましたな~!」


 嬉しそうに笑ったひよりさんが頭を掻きながら言う。

 先に立ち上がった彼女に続いて起きることにした僕は、ひよりさんと共に洗面所に向かうと一緒に顔を洗って、歯を磨いていく。


「歯ブラシまで用意してもらっちゃって、何から何まで申し訳ないな~……」


「気にしないでよ。どうせ余ってたやつだし、大したことじゃないしさ。あ、ブラシとドライヤーも使う?」


「うん、この後で使わせてもらうね。にしても……う~ん、やっぱ髪伸びたな~……」


 そう言いながら自分の髪の毛を弄るひよりさんの姿を見て思ったのだが、確かに最初に会った時と比べて髪が伸びている気がする。

 寝ぐせがついていることもあるのだろうが、ショートボブだった黒い髪はそれより少し長くなっているし、全体的な毛の量も増えているように見えた。


「言われてみればそうだね。そろそろ切りに行くの?」


「んん~……そうしたいけど、このタイミングで切ると失恋したからそうしたって仁秀に思われそうで嫌なんだよね……」


「じゃあ、いっそのこと伸ばす?」


「それもそれで柴村に近付こうと足掻いてるって思われそうで嫌だ……あっ! 今絶対、面倒な女だなって思ったでしょ!?」


「そうは思ってないよ。やっぱり女の子にとって髪って大切なもなんだなって、そう思っただけ」


 ひよりさんの言葉を否定しつつ、苦笑を浮かべる。

 タイミングとか、状況とか、色々考えなくちゃいけないことがいっぱいで大変だなと、やっぱりまだ江間の存在は彼女の中で残っているんだなと……そう僕が改めて思ったところで、母が顔を出した。


「おはよう、ひよりちゃん。ついでに雄介もおはよう」


「おはようございます!」


「実の息子をついで扱いするのって、母親としてどうかと思うよ?」


「ひよりちゃんの服とか、全部洗い終わってるからね。乾燥も終わってるから、いつでも着替えて大丈夫よ」


「ありがとうございます。じゃあ、とりあえず下着だけでも着けてきちゃおうかな……」


 僕のツッコミを無視してひよりさんと話す母は、彼女の言葉に頷いて一旦引っ込んだ。

 ひよりさんも後を追って消え、暫しした後で渡された下着を手に僕の部屋へと着替えに向かう彼女の後ろ姿を見つめる僕へと、母が声をかける。


「いい夜を過ごせたみたいじゃない。変なこともしてないみたいだし、一安心ね」


「そうやって心配するなら、最初から反対すれば良かったじゃん」


「そういう心配はしてないわよ。私の息子だもの、女の子を適当に扱うことはしないって信じてるからね。心配してたのはひよりちゃんの方。ちょっとだけ浮かない顔をしてたけど、今朝はすっきりしてたから、安心したわ」


 流石は母、ということなのだろう。昨晩のひよりさんの焦りとか、そういうものを見抜いていたようだ。

 その上であんな真似をさせたのは、息子である僕を信頼してのことらしい。

 おかげでお互いに色々と話ができてすっきりできた。その部分に関しては、母の判断に感謝だ。


「大切にしてあげなさいよ。友達としても、他の何かだったとしてもね」


「……言われなくてもわかってるよ」


 僕のその答えに、母は満足気に笑った。

 そうした後、「冷蔵庫の中身のもの、自由に使っていいわよ」とだけ言い残し、二度寝をするために自分の部屋へと引っ込んでいく。


 色々と気を遣ってくれたことや、二人きりの時間を作ってくれた母に改めて感謝しながら、僕はキッチンへと向かい、朝食を作っていった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「わわわっ!? 雄介くん、朝食まで作ってくれたの!?」


「うん。ひよりさんの口に合うかはわからないけど、一緒に食べようよ」


「ありがとう! うわ~! すっごい美味しそう!」


 厚切りの食パンとベーコンエッグを乗せた皿に加えて、牛乳を注いだマグカップをテーブルの上に置く。

 そのタイミングで着替え……もとい、下着を着けてきたひよりさんが戻ってきて、僕が作った朝ご飯を見ながら目を輝かせる。


 簡単なメニューだが、そこまで喜んでくれたなら作った甲斐があると思いながら、僕は彼女と向かい合って朝食を食べ始めた。


「じゃあ、いただきま~す! はぁむっ! んん~っ! やっぱり美味しい!!」


「お気に召したようで何より。ひよりさん、食パンに何塗る? ジャムとかマーガリンとか、チョコソースとかあるよ」


「え~っと……じゃあ、イチゴジャムをお願いします!」


「うん、わかった。いちご、好きなんだね」


「ケーキバイキングでもいっぱい食べたしね~! そう言う雄介くんは何を塗るの?」


「その日の気分によるかな? 今日はないけど、マーマレードとか好きだよ」


「そうなんだね! じゃあ、今度からうちに用意しておこうかな? 雄介くんが泊まりに来た時のためにさ!」


 本気なんだか冗談なんだかわからないことを言うひよりさんと、楽しく笑い合う。

 食パンに何を塗るのが好きかなんて小さなことだったけど、またこうして彼女のことを知って、僕のことを知ってもらえたことが嬉しくて、この日の朝食は普段よりもずっと美味しく感じられた。


 その後、ゆっくりとミルクを飲みながら朝の情報番組を確認していた僕たちは、昨晩この近辺を襲った爆弾低気圧が過ぎ去ったことを知った。

 外は昨日の荒天が嘘のように晴れ渡っていて、番組の司会も絶好のお出かけ日和と語っている。


『折角の休日、ちょっと映画でも見に行きませんか? ということで、最新映画ランキング発表の時間です!』


 そんな流れで毎週の特集である映画ランキングの発表が始まって、僕たちは話しながらそれを眺めていった。

 最新の邦画や海外の話題作、アニメ作品なんかの人気度合いが発表される中、三位の作品を見たひよりさんが言う。


「あ……! この映画、ちょっと気になってるんだよね」


「へぇ~……」


 最近、話題になっているミステリー映画。少し前に短期でアルバイトをした本屋で原作小説が並んでいるのを見たから、僕も覚えている。

 その時はちょっと気になる程度だったが……これもいい機会だと考えた僕は、テレビを見ていたひよりさんへとこう返した。


「じゃあ、今日見に行く?」


「えっ? いいの!?」


「さっき絶好のお出かけ日和だって言われてたし、いい機会だしね。ひよりさん、予定は大丈夫?」


「もちろん大丈夫! へっへ~! お家にお泊まりに続いて、休日デートかぁ……!!」


 自分でも驚いたが、本当に自然にデートに誘うことができていた。

 色々と自分の中で覚悟が決まったからそうなっているのかと今更ながら僕が自分自身の大胆さに驚く中、嬉しそうに笑うひよりさんが言う。


「……なんか、あれだね。昨日、大我くんも言ってたけどさ。こんなふうに朝食を食べながらさらっとデートが決まるの、本当に夫婦みたいだ」


「……そうかもね。うん、そうだ」


 ちょうど、僕もそう思ったところだった。

 照れくさくて口にはできなかったけど、そういうことを簡単に口に出してくれるひよりさんのおかげで気持ちが共有できていると実感できて、それを僕も嬉しく思っている。


「さて、そうなると一旦帰っておめかししないとね! 一旦帰って、着替えてくるよ!」


「わかった。じゃあ、昼過ぎに改めて集合するってことで」


「オッケー!」


 スマホを取り出し、お目当ての映画の上映時間を確認してからの僕の提案に、ひよりさんは元気よく同意してくれた。

 その後は朝食で使った食器を一緒に洗って、ひよりさんに貸していたシャツとハーフパンツを返してもらって、自分の服に着替えたひよりさんを玄関まで見送って……靴を履いた彼女は、家を出る寸前に振り向いて言う。


「今日はありがとう! 真理恵さんや弟くんたちにもよろしく伝えておいて!」


「こっちこそ楽しかったよ。じゃあ、また後で」


「うん! また後でね! 今日のデート、楽しみにしてるから!!」


 笑顔で手を振ってから、ひよりさんが玄関のドアを開けて外へと出ていく。

 扉が閉まるまで手を振り続けて彼女を見送った僕は、この後のデートへの期待に胸を弾ませつつ、弟たちを起こしに向かうのであった。


―――――――――――――――

突然すいません!

今日、ラブコメの日間ランキングを覗いたら、この小説が1位になってました!

皆さんの応援のおかげです!本当にありがとうございます!


一時間後をお楽しみに!

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