第52話
「ごちそうさまでした」
夕食を食べ終わった。
食べる前に思っていた通り、食欲を満たした結果、さっきまでの気持ちはかなりマシになっていた。
「……俺、風呂入ってくるな」
まだ俺の目の前で食事中の絆月に向かって俺は食器を片付けつつ、そう言った。
本当なら、食べて直ぐに風呂になんて行きたくないんだけど、食欲を満たしてさっきまでの気持ちがマシになったとはいえ、完全に無くなった訳では無い。
だからこそ、少しでも一人になって落ち着きたかった。
「まだお風呂、沸いてないよ?」
「……沸かしながら、身体でも洗ってるよ」
「シャワー?」
「……まぁ、そうなるな」
「お風呂を沸かしながらじゃ、暖かくないよ。風邪引いちゃうから、ちゃんとお風呂が沸いてから入ろ?」
絆月が諭すように言ってくる。
……まぁ、いいか。
こうやって話してると、なんか普通に落ち着いてきたわ。
「あー、まぁ、そうだな。……あれだ。さっきはああ言ったけど、絆月に先に入ってもらうから、風呂は絆月のタイミングで言ってくれれば、沸かすからな」
「私は昨日先に入らせてもらったから、今日は慎也が先でいいよ」
「……遠慮しなくていいぞ?」
「遠慮なんてしてないよ。慎也が先に入って」
もうこの話は終わりとばかりに絆月は止めていた夕食を食べる手を動かしだした。
……嫌な予感がするんだけど、気のせいか? ……ここ数日の絆月の積極的な感じを思い出すと、それこそ俺が風呂に入っているところに突入してきたり……いや、それは流石に無いか。
確かに最近の絆月はかなり積極的に俺を誘惑……うん。あれは確実に誘惑だ。……誘惑をしてきてるけど、そこに羞恥心が無いわけじゃないもんな。
いくら絆月でも、そんなことは恥ずかしくてしてこないはずだ。
……まぁ、昨日もそんな感じに大丈夫だろうと思ってたのに、俺は絆月と一緒に寝るなんてことになってしまったりしたけど、一緒に寝るのと一緒に風呂に入るのとでは全然違うもんな。
大丈夫だろう。
……こればっかりは流石に大丈夫のはずだ。
「……なら、俺は風呂を沸かしてくるな。……一応言っとくけど、絆月が入る時はもう一回暖めたらいいだけだから、別に焦って直ぐに入ろうとしなくてもいいからな」
「うん。分かったよ。ありがとう、慎也」
そんなやり取りをして、風呂を沸かす為に俺は風呂場に向かった。
……いくら大丈夫だと思っていても、不安っていうのは湧いてくるものだけど、それでも、大丈夫なはずだ。
そもそも、絆月は一旦家に帰らないと着替えが無いし、夕食を食べていることも考えれば、俺が少し早めに風呂を上がればいいだけの話だと思うし、平気だ。
……今更だけど、こんなに不安になるくらいだったら、やっぱり普通に絆月に先に入ってもらえばよかったな。
……まぁ、もう風呂も沸かしたし、入るんだけどさ。
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