第50話

 下半身のことは今のところ上手く隠せてるようだけど、あれからもずっと絆月に舌を入れるキスをされ続けた俺は、色んな意味でもう限界だった。

 

「絆月​──」


 押し倒そうとした。

 ただ、その瞬間、玄関の鍵が開く音と同時に、玄関の扉が開く音が聞こえてきた。

 泥棒……な訳がなく、母さんが帰ってきたんだ。


 それを理解した瞬間、一気に俺の頭は冷水をぶっかけられたかのように冷静になってきた。

 

「は、絆月、もう、ほんとに、ダメだ。……な? 分かるだろ? 頼むよ」


「……分かってるよ。いくら愛し合っていても、お義母さんが家にいるのに、そんなことは出来ないよね。……後ちょっとだったのにな」


 残念そうに呟くようにそう言った絆月はめちゃくちゃ名残惜しそうに俺から離れて、ベッドから降りてくれた。

 ……いや、ちょっとだけ待って欲しい。

 え? 最後の「後ちょっとだったのに」って何!? もしかしてだけど、今はもう大丈夫だけど、本当は俺のさっきまでの下半身の状態もバレてたってこと、なのか? ……全部絆月の手のひらの上で踊らされてたってことなのか? ……冗談だろう?


「慎也、大好きだよ」


 俺の考えを見透かすように、絆月のそんな声が聞こえてきた。


「……俺も好き、だよ」


 ……めちゃくちゃ怖いとは思うけど、嘘では無い。

 仮にさっきのが全部絆月の手のひらの上で踊らされていたんだとしても、好きだと思えるくらいには俺は絆月に惚れている。……もう一度言うが、ちゃんと怖いとは思うけどな。


「慎也ー? 今日も絆月ちゃんが来てるのー?」


 母さんのそんな声が聞こえてくる。

 ……部屋で二人きりだとまたさっきみたいなことをされるかもしれないから、リビングに行こう。


「リビング、行こうか」


 今日も絆月が帰らずに家にいるのかは分からないけど、取り敢えず、俺はそう言った。


「うん。……今回は特別に許すけど、次はダメだからね?」


 そして、俺もベッドから降りて扉に向かって歩き出そうとしたところで、絆月が抱きついてきたかと思うと、耳元で囁くようにしてそんなことを言ってきた。


「わ、分かってる、よ」


 確かな恐怖心を抱えつつ頷き、俺はそれを誤魔化すようにして母さんに返事をしながらリビングに向かった。

 

「お邪魔してます、お義母さん」


「ふふっ、いらっしゃい、絆月ちゃん。昨日みたいにゆっくりしていってくれていいからね。……今日の私は残念ながら用事は無いけどね」


「昨日も言った通り、お義母さんと話すのも楽しいので、お気遣いなく」


 ……さっきまでの淫猥? な空気を放っていた絆月はどこに行ったんだよ。

 

「俺、部屋戻ってるよ。ご飯の時に呼んでくれ」


 さっきの出来事のせいで絆月と二人きりでいるのが不味いと思ったからリビングに出てきただけで、絆月が母さんと話をしているのなら部屋に戻ったってなんの心配も無いから、俺は聞いているのか聞いていないのかは分からないけど、一応一言言ってから、部屋に戻った。

 

 さっきまで絆月と一緒に寝ていたベッドを見る。

 ……母さんが帰ってくるのがほんの少しでも遅かったのなら、俺はあのまま……いや、もしもの話なんてやめよう。

 少なくとも、そういうのはもっと絆月のことを知ってからって決めてるんだから、なんだかんだ言って大丈夫だったはずだし。

 ……そもそもの話、避妊具が今この場には無いんだから、そういう意味でも俺は我慢していた……はずだ。

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