第47話

 終わった。

 やっと授業が終わった。


 休み時間になる度に俺に話しかけてくる絆月に寝不足だとバレないように、休み時間にも寝ないように気をつけていたから、俺は本当に昨日からずっと眠っていないことになる。

 だからこそ、開放感というものがやばかった。

 ……かなり語彙力が無くなってるけど、寝不足過ぎて考える力も当然下がってるだろうし、これは仕方ないと思う。

 ……まだ歩いて家に帰らなくちゃならない以上、余計なことを考えていないで、さっさと帰ろう。

 それで、もう死んだように眠ろう。

 明日は休みだし、それも許されるはずだ。


 相変わらず人に囲まれている絆月を横目に、俺は早歩き……ほぼ小走りで教室を出て、家に向かった。

 もちろん、事故には気をつけながら、だ。

 ……彼女と寝るのに緊張して寝不足になってしまい、交通事故にあってしまった、なんてバカバカしすぎるからな。

 いくら寝不足でも、それくらいは気をつけるさ。


 そして、学校を出て、あと少しで家に着く、といったところで、俺は重大なミスをしでかしてしまっているのではないか? という疑問を抱いた。

 そういえば俺、ナチュラルに一人で帰ってしまってるな。

 別に約束してた訳じゃないけど、絆月は俺と一緒に帰る気だったんじゃないのだろうか。

 後ろを見る。

 俺が絆月をまだ突き放そうとしていた時は、どれだけ早く逃げるように学校を出ても絆月に捕まって一緒に帰ることになってたけど、今は全然そんな様子は無かった。

 これはつまり、絆月が正式に付き合い始めた彼女である自分を置いて行くはずがない、と俺を信頼していたからこその状況なんじゃないだろうか。


 絆月は怖いくらいに……そう、本当に怖いくらいに俺の事を分かっているからこそ、っていうのももしかしたらあるのかもしれない。

 だって、寝不足でさえなければ、俺は普通に絆月を誘って絆月と一緒に帰ってただろうし。


 ……取り敢えず、一人で帰ってしまったことの謝罪の連絡を入れておくか。

 ……別に約束してた訳じゃないんだから、最初から絆月は一人で帰るつもりだった可能性もあるけど、それならそれで別にいいし。


【ごめん。わざとじゃないんだけど、一人で帰っちゃった】


 ……もう少しいい書き方があったか? と思わないでもないけど、今はもう眠い。

 

【なんで?】


【わざとじゃないって何?】


【理由は?】


 そう思っていると、とんでもないスピードで返信が返ってきた。

 

【理由は言えないんだけど、本当にわざとでは無いんだよ】


 寝不足なことは言えないから、俺はそんな返信を送った。

 そして、家が見えてきた。

 ……早く帰って、寝よう。

 絆月には起きてから改めて謝ろう。

 それでいいはずだ。

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