第46話
「慎也、朝ごはん出来たよ」
「……あー、うん。ありがとう」
今は食欲よりも睡眠欲の方が強いんだけど、それを正直に言ったって何かが変わる訳じゃないだろうし、それどころか、絆月に昨日眠れていないことがバレそうだし、余計なことは言わずにそれだけを言って、絆月が朝食を置いてくれている机の前に座った。
「いただきます」
──────────────
「ご馳走様。美味しかったよ、絆月」
「うん」
……俺が美味しいと感じることくらい分かっていたのか、絆月は当然のことのように俺の言葉に頷いてきた。
……まぁ、それでも心做しか嬉しそうだとは思ったけどさ。
「絆月、一旦家に戻ったらどうだ? 制服とかは持ってきてないだろ?」
「持ってきてるから、家を出なくちゃならない時間までイチャイチャしてよっか」
持ってきてるのかよ。
……普通、隣なんだし、制服まで持ってきたりしなくないか?
いや、俺ならわざわざ戻るのも面倒だし、って理由で持ってくるかもだし、俺は人のことなんて言えないかもだけど、絆月が制服までちゃんと持ってきてた理由って絶対そういう理由じゃないよな。
「イチャイチャはしないよ」
まぁ、とにかく、これだけは言っておかないとな。
「なんで?」
「……なんでって、まだ朝だからだよしないだろ」
「朝以外ならしてくれるの?」
「……しないって」
そういう話じゃないだろ。
そう思って、そう言った。
……いや、俺だって本当にしたく無いわけではないんだよ。
ただ、正直にその気持ちを言えば、なんか、歯止めが効かなくなりそうだし。……俺じゃなくて、絆月の。
「なんで? もう、私たちは付き合ってるんだよ? 何も問題なんてないよね? なんでダメなの?」
目には見えないけど、確かな圧を俺に掛けてきながら、絆月はそう言ってきた。
「……ま、まだ付き合って1日目何だからだよ。……しかも幼馴染とはいえ、会話するのは3年ぶりなんだぞ?」
恐怖心が俺を襲ってくるけど、その恐怖心に負けずに、俺はなんとか眠たいのも我慢しながら、そう言った。
「うん。だから?」
なのに、絆月は当たり前のことのようにそう聞き返してきた。
……俺、そんなにおかしいこと言ったかな? 言ってないよな?
「昨日も言ったけど、私はその3年間もずっと慎也のことを見てたし、思ってたよ。……私を避けてたのは、慎也の方でしょ」
「……」
そんなことを言われてしまっては、俺は何も言えない。
……だって、実際にそうなんだから。
「ねぇ、いいでしょ? 慎也。今は確かに朝だし、ギュッとするだけでいいからさ」
「……それくらいなら」
本当はやめた方がいいと思う気持ちはあるんだけど、さっきの絆月の言葉を否定できない以上、それくらいならと思い、俺はそう言った。
……どうせ一緒のベッドにさっきまで入ってたんだし、少し抱きしめるくらい余裕だ。
「ほ、ほら、これでいいだろ?」
そして、俺は絆月のことを軽く抱きしめた。
すると、絆月の方からも俺の事を抱きしめてきたかと思うと、少し痛いくらいに力を込めてきた。
「もっと、強く」
「わ、分かったよ。これでいい、か?」
「……うん」
さっきまで一緒のベッドで抱き合ってたのに、やっぱり緊張するな。……それと同じくらいに嬉しいって気持ちももちろんあるんだけどさ。
……学校、行きたくないな。……めちゃくちゃ眠いし。……それでも、ちゃんと行くんだけどさ。
母さんに怒られるし。
……いや、それ以上に、変な勘違いをされるのが嫌だ。
まるでそういうことをしてて、寝不足で休むみたいになってしまうし。
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