第43話
「じゃあ、慎也、そろそろ寝よっか」
「……あ、あー、いや、俺はまだ眠くないから、いいかな。……絆月は全然先に寝ててくれていいぞ?」
本当は色々あって身体的にも、精神的にも疲れていて、少しだけ眠いけど、全くそんなことを表に出すことなく、俺はそう言った。
「んー、なら、私ももうちょっとだけ起きてるよ」
すると、そう言って、せっかく離れてくれていた体をまた俺にくっつけて、体を預けてきた。
……なんか、言い方的に俺が嫌々絆月がくっついてきているのを受け入れている、みたいになってしまったけど、そういう訳では無い。……もう俺と絆月は付き合ってるんだし、普通に嬉しいに決まってる。
でも、一緒に寝るとなるとやっぱり話が変わってくるじゃないか。……だから、そのまま一人で眠りに行って欲しかったんだけど、そう上手くはいかなかった。
「せっかく慎也が一緒に寝てくれるって約束してくれたのに、ソファで寝落ちしちゃったら困るもんね」
「ッ──」
絆月のそんな言葉を聞いた瞬間、俺は目を見開き、体を硬直させてしまった。
……だって、もしも絆月があのまま眠りに行っていたら、俺はこのままリビングで寝て、まさに「気が付かないうちに眠ってしまっていた」という言い訳を明日の朝に使おうと思っていたんだから。
「慎也? どうしたの?」
「えっ? あ、な、なんでもない、ぞ?」
たまたまに決まっている。そんなことありえないんだから、と頭の中で何度も何度も首を横に振り、俺はそう言った。
……上手く言えたかは分からない。そんなことを意識する余裕なんて今の俺には無かったから。
「ほんと?」
下から覗き込むようにして、絆月は俺の体にくっついてきたままそう聞いてきた。
……何もかもを見透かされている気がする。……もういっそ白状してしまうか? とも思ったけど、それが勘違いだった場合を考えてしまい、なかなか口を開くことが出来なかった。
「慎也? 聞いてる?」
「き、聞いてるよ。……その、ほ、ほんと、だよ。俺が絆月に嘘をつくわけないだろ。……て、テレビでも付けようか」
これ以上何かを聞かれたらボロが出るかと思って、俺は手を伸ばしてリモコンを取り、適当なチャンネルを付けた。
……正直テレビで見たいものなんて無いし、そのまま俺はスマホの画面に視線を移して逃げた。
……横から絆月の視線が痛いほどに刺さってきている気がするけど、無視だ、無視。反応する方が何かやましい事があるんじゃないか? って疑われることになると思うし、無視でいいはずだ。
「ん、寝るのか?」
そうして過ごしていると、絆月が突然俺から離れたから、思わず俺はそう聞いた。
「……うん。慎也の隣にいるのが心地好くて、ちょっとだけ、ほんとに眠たくなってきちゃった」
「なら、早く寝た方がいいな。我慢は良くないからな」
「うん」
絆月には悪いけど、これで一緒に寝ることは回避出来るな、と俺が思ったところで、絆月はそのまま体を横に倒してきたかと思うと、俺の太ももを枕にして、お腹辺りに抱きついてきながら目を閉じてしまった。
「……は? え、えっと、絆月……さん?」
「慎也が寝る時、起こしてね」
いや、待って? なんだ? この状況。
なんで俺は絆月に膝枕をしているんだ? 普通、逆じゃないのか? ……いや、別に俺がして欲しい訳では無いけど、一般的に考えたら逆じゃないのか?
……視線を改めて下に向け、俺に膝枕をされている絆月を見る。
なんか、昔にもこんなことがあった気がする。……あの時は何も考えずに絆月の頭を撫でてあげたんだったかな。
そんなことを思い出しつつ、俺は絆月の頭をゆっくりと一回だけ撫でた。
……仕方ない。……俺も寝るか。
このままこんなところで絆月を寝かせてたら、腰を痛めてしまうかもしれないし。……まさかとは思うけど、これが狙いで絆月はこんなことをしたのか? ……いやいや、流石に考えすぎか。
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