第42話
「絆月、今言うようなことじゃないのかもしれないけど、自分の気持ちがブレないうちに伝えさせてくれ」
「……え? う、うん。なに? 慎也」
「絆月、好きだ。一度突き放して、三年も避けてた俺がどの面下げてそんなこと言うんだって感じかもしれないが、俺は絆月のことが好きだ」
勢いに身を任せてしまった感はある。
でも、多分、俺のこの気持ちは間違ってないはずだ。……直感だけど、明日になったらまた分からなくなってたと思うから、今言うしかないと思ったんだよ。
「……ぇ、ぁ……私も、私も慎也のことが大好きだよ!」
今までの絆月の言動からして、大丈夫だと頭の中で思っていても、やっぱりちゃんと返事を聞くまではドキドキするし、俺が今までに経験したことのない程の緊張をしていると、どれだけ時間が経ったかは分からないが、絆月が顔を赤くして、口を開き、そう言ってきた。
告白をしてかなり緊張しているからか、単純に俺が絆月のことが好きだからなのか、そんな絆月の姿が可愛く見えて仕方なかった。
「慎也、もう私たち、恋人ってことでいいんだよね?」
「え? あ、あぁ、そう、だな。絆月が俺の事を受け入れてくれるのなら、そうだな」
「なら、これから恋人としてよろしくね! 慎也」
そして、随分とあっさり俺は絆月と付き合うことになった。
……嬉しい……はずだ。いや、はずとかじゃなく、普通に嬉しい。
ただ、なんか、あれだけ緊張したのに、あっさりすぎて──
「慎也っ!」
俺が頭の中で色々と考えていると、急に絆月が俺の名前を呼んできたかと思うと同時に抱きついてきた。
「いいよね? もう恋人なんだから、罰ゲームなんかじゃなくても、こうやってくっついてもいいよね?」
「……そ、そうだな」
そう言いつつ、俺の方からも絆月を抱きしめ返した。
すると、絆月は俺にも分かるくらいの嬉しそうな声を出して、抱きしめる力を強くしてきた。
……こうやっていると、自分の気持ちに勇気を持って告白して良かったと本気で思える。
だって、今の絆月、めちゃくちゃ可愛いし。
「一緒に寝るのも、いいよね? 慎也」
……そう言えば、さっきまでそんな話をしてたんだったな。
告白の緊張で忘れてたよ。
「……まだ早くないか?」
確かに絆月の言う通り、もう恋人になったんだし、異性とはいえ、一緒に寝るくらい良いのかもしれないけど、やっぱり、まだ早いと思うんだよ。
付き合ったばかりでいきなり同じベッドで寝るとかあるのか? 無いだろ。……多分だけどさ。
ずっと仲良しだった幼馴染とかだったのならともかく、少なくとも俺と絆月の間には三年も関わらなかった時間があるんだからな。
「なんで?」
「な、なんでって……俺から突き放しといてなんだけど、三年も関わらなかった時間があるんだ。もう少し、改めてお互いを知ってからでも遅くないんじゃないか?」
「……私はその三年の間もずっと慎也のことを思ってたし、慎也のことならなんでも知ってるよ? ずっと、ずっと見てたんだから」
絆月のその言葉を聞いて、俺は思わず絆月のことを更に強く抱きしめてしまった。
絆月のことが愛おしくなって……とかでは無い。
シンプルに、怖かったからだ。
……絶対に絆月が知らないはずの俺の好物を知っていたあの件がなければ「ずっと見てた」なんて言葉をそのまま受け止めるようなことはしなかっただろうけど、その件がある以上、本当にずっと俺の事を見ていたのでは? なんて考えが浮かんでしまったんだ。恐怖を感じないわけが無い。
「ねぇ、慎也。いいよね?」
「ぇ? あ、あぁ……ほんとに寝るだけ、だぞ?」
「うん」
今なら、自分の気持ちが分からなかった理由が分かるかもしれない。
……絆月を好きという気持ちに間違いは無いだろうが、この恐怖心から、本能的に危機感を感じて自分の気持ちが分からなくなっていた……分からない振りをしようとしていたのではないだろうか。……あくまで予想でしかないんだけどさ。
「慎也、大好き」
「……俺も好きだよ」
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