第38話

 風呂から上がった。

 色々と絆月のことを意識してしまっていた俺だが、流石に絆月がさっきまで浸かっていたとはいえ、風呂の湯に変なことを考えることは無かった。

 これに関しては当たり前だろう。俺はそこまでの変態じゃないんだからな。


「絆月、何か頼んだのか?」


 体を拭き、適当な寝巻きを着た俺はそう言いながら絆月のいるリビングに入った……はずだったのだが、そこに絆月は居なかった。


「ん? あれ? リビングに居ると思ったんだけどな」


 そんなことを呟きつつ、何か心変わりをして家に帰ったのか? という考えを思い浮かべながらも、俺は何となく自分の部屋に足を運んでいた。

 流石に居ないとは思うけど、一応な。


「ッ、し、慎也、どうしたの?」


 いや、まぁ、まさか居るとは思ってなかったとはいえ、別に変な物は置いてないし、俺が居なくたって絆月が俺の部屋に居ることくらい全然問題ないんだけど、今更普通な感じを出してももう遅いぞ?

 だって、俺が部屋に入って来た時、もう言い逃れできないほどに俺の枕を抱きしめながらベッドに寝転んでたじゃん。

 今は枕を頭の位置に戻して、さも枕なんて抱きしめたりなんてしてなくて普通にベッドに寝転んでただけですけど? みたいな感じだけど。


「えっと、何してたんだ?」


 別に責めてる訳じゃない。

 ただ、あれだ。かなり遠回しだけど、臭くなかったかを確認したいんだよ。

 俺からしたら絆月は好きかもしれない女の子なんだぞ? 臭いとか思われてたら普通にショックを受けるに決まってるし、もう直ぐに洗濯をするつもりだ。


「……ひ、引かない?」


 今更俺が絆月に対して引くこととかあるのかな。

 母さんの同意があるとはいえ、俺に許可なく勝手に家に入ってくるような幼馴染だぞ? もう今更すぎる。


「引かないよ」


「……慎也の匂いを嗅いでたよ」


「臭くなかったか?」


「私の大好きな慎也の匂いだったよ」


 ……臭いかを聞いてるんだが、まぁ、大丈夫だったってことか。

 と言うか、匂いを嗅いでただけでなんでそんなに恥ずかしそうなんだよ。

 いや、普通は恥ずかしがるのかもだけど、この前罰ゲームでめちゃくちゃ匂いを嗅いできただろ。……昔よりかなり成長した体を押し付けてきながら。

 

「……引いてない?」


「引いてないよ」


 今更そんなことで引いたりなんてしないよ。

 

「それより、結局出前は頼んだのか?」


「うん」


「何にしたんだ?」


「お寿司」


 ……たまたまか? めちゃくちゃピンポイントに俺が食べたかったものなんだけど。

 なんでもいいと言って風呂場に直ぐに向かったのは絆月のことを更に意識してしまわないようにするためだったし。

 

「慎也、食べたかったでしょ?」


「……いや、俺は絆月に言った通り別になんでも良かったぞ?」


「良かった」


 俺の言葉、ちゃんと聞こえてたよな?

 俺、なんでもいいって言ってるんだけど? 内心は少しだけ違ったとはいえさ。


「……リビング、戻らないか? ここだとインターホンの音が聞こえないかもしれないからさ」


 そう思いつつも、俺はもうそのことには触れないようにして、そう言った。

 ……絆月と自分の部屋で二人っきりって状況も普通に色々と意識してしまうからな。

 リビングでもあんまり変わらないかもだけど、自分の部屋よりはマシなのはゲームをした時に確認済みだ。

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