第39話

「ありがとうございます」


 そんな言葉と同時に、俺は玄関の扉を閉じた。


 絆月が頼んでくれた出前の寿司が届いた。

 それは良いんだが、なんで寿司の内容が俺の好きなネタばっかりなんだよ。

 子供の頃、俺たちの両親と絆月のみんなで寿司を食べに行ったことくらいあるし、子供の頃に好きだったネタが入ってるのは理解できるんだよ。

 ただ、子供の頃は好きだったけど、今はあんまり好きじゃなくなったものは当然のように入ってないのが理解出来ない。

 それだけじゃなく、その逆の子供の頃は嫌いだったけど今は好きになっているネタもちゃんと入ってるし、どういうことなんだよ。


「……届いたぞ、絆月」


 そんな疑問を内心に抱えながらも、俺は絆月の待っているリビングに戻った。


「うん。中身、見た? 慎也の好きなものばかりだったでしょ?」


 すると、当たり前かのように絆月はそう言ってきた。

 ……こんな絆月の様子を見ているとまるで俺がおかしいかのように感じてきてしまうけど、そんなはずは無い。

 どう考えても、おかしいのは俺じゃなく絆月の方だ。

 ……だって、多分だけど、母さんすら俺が子供の頃に嫌いだったウニを食べれるようになった……どころか、好きになっていることなんて知らないはずだぞ。

 どうやって知ったんだよ。


「……あぁ、そう、だな」


 本当は聞きたい。

 なんで俺の好物をそんなに完璧に把握しているのかをめちゃくちゃ聞きたい。

 ……でも、俺は聞かなかった。

 本当はあの日から俺にプライバシーなんて無かったんじゃないのか? なんて考えが頭に過ぎって、怖かったから。


「あり、がとな、絆月。……食べるか」


「うん」


 絆月は俺の言葉に頷くと同時に、俺が寿司を受け取っている間に用意してくれていたであろう皿にワサビと醤油を掛けて俺の方に渡してくれた。

 ……子供の頃はワサビも食えなかったんだけどな。


「はい、慎也」


「……うん。ありがとう、絆月」


「気にしないで」


 ……違う意味で色々と気にしたいけど、絆月の言う通り、気にしないようにするか。

 普通なら絶対に知らないはずのことをなんで知ってるのかが分からなくて、本当に怖いし。

 ……俺が避けてたから、関わりなんてマジで無かったもんな。うん、怖いわ。やっぱり触れない方がいい。


「絆月はワサビ、いらないのか?」


「うん。私は醤油だけで大丈夫だよ」


「そうか」


 絆月は昔と変わらないんだな。

 

「食べよ? 慎也」


「……そうだな。いただきます」


「いただきます」


 お互いそう言って、寿司を食べ始めた。

 ……美味い。……こんなに美味いんだし、絆月が俺の好物を知っていたことくらいどうでもいいよな。

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