第34話
「もうこんな時間だし、帰った方がいいんじゃないか?」
絆月との勝負で今日五回目の敗北表示が出たところで、俺はそう言った。
別にもう絆月に負けたくないから、とかでは無い。
普通に次やれば勝てると思ってるし。
だったらなんで急にそんなことを言ったのかと言うと、シンプルに外が暗くなってきてるからだ。
口でも「もうこんな時間だし」ってちゃんと言ってるしな。
「まだ大丈夫だよ」
「いくら隣とはいえ、危ないだろ。……母さんだってもう帰ってくるしさ」
母さんが帰ってきたら、今までのことからして泊まっていったらいいじゃないみたいなことを言い出して、本当に絆月が泊まっていくことになりそうだから、絶対に母さんが帰ってくる前には帰って欲しい。
もう突き放そうとはしてないとはいえ、好きかもしれない女の子が家に泊まっていくなんて、落ち着かないだろ。
昔はよく泊まったりしてたけど、今と昔は違うし。
……今日だって朝起こされただけでめちゃくちゃ焦ったし、挙句の果てには夢だと思って気まずくなるような事までしてしまったし。
「お義母さんが帰ってきたら何かダメなの? 私、普通以上に仲良くやれてると思うよ?」
……分かってるよ。
そうじゃなきゃ、今も俺は絆月のことを突き放そうとしてるだろうし、そう考えると案外良かったのかもな。
「送っていくから、な? また明日会えるだろ?」
「送ってくれるのなら、尚更まだ大丈夫だと思うけど、なんで私を帰そうとするの? 私と一緒に居たくない?」
「い、いや、そういう訳ではないよ」
間違ってないこともないかもだけど、絆月の言葉に俺はそう返した。
正直に言う訳にはいかないと思ったから。
「なら、別にいいでしょ? 早く続きをやろ?」
「……この後、用事があるんだよ」
帰ってくれる様子が無かったから、悪いと思いつつも、俺はそんな嘘をついた。
……まぁ、なんだかんだ言いつつ、部屋も布団も余ってないから、本当に絆月が泊まっていくことになるなんて思ってないけどな。
……一応、一緒に寝るって選択肢もあるにはあるかもしれないけど、それは今朝の感じからして流石の絆月も恥ずかしいっぽいしな。心配はしていない。
「用事って、何?」
「……プライベートなことだよ」
「うん。それで、なんの用事があるの?」
……なんで当たり前のことかのようにプライベートなことだって言ってるのに、それを聞いてこようとするんだよ。
「なんでもいいだろ。……ほら、送っていくから、まずは早く立ってくれ」
「やだ」
「なんでだよ。このままだったら母さんが帰ってきちゃうだろ」
「何も問題なんてないから、大丈夫だよ」
俺が……いや、今回に関しては絆月からしても問題しかないからな?
今日の朝のことを忘れたとは言わせないからな?
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